日々の泡。

popholic diary

2021年に観た映画の話。

ということで2021年MYベスト映画は

①フリー・ガイ
②すばらしき世界
③ドライブ・マイ・カー
④ファーザー
⑤由宇子の天秤
アメリカン・ユートピア
⑦あのこは貴族
⑧街の上で
⑨ソウルメイト/七月と安生
⑩君は永遠にそいつらより若い

とこんな感じになりました。

毎年、こうして自分のベスト映画選んでみると、なんとなく一つのテーマみたいなものが浮かび上がってくる。2020年で言えば「"正しさ"とは?」を問いかけるような作品が多かったように思うし、それについて考えさせられる作品を自分自身も選んだように思う。

でそれぞれの映画について。このブログ内に書いた観た時の感想を抜粋しつつご紹介

ショーン・レヴィ監督「フリー・ガイ」

主演はライアン・レイノルズ。ゲームのモブキャラで型通りの毎日を過ごす銀行員のガイ。彼が生きるのはオンラインアクションゲーム「フリーシティ」の中。何をやってもいいゲームの中で参加者たちは暴力に明け暮れる。そんな中ある出会いがきっかけでガイは自分の意志で自由に動けるように…。荒唐無稽な話でありながらゲームの世界と現実のリンク、なぜそうなったのかという意味や辻褄に無理がなく、現代的で社会的なメッセージが最高の形で伝わる。暴力に満ち溢れたゲームの世界で「善い人」であろうとするガイ。声なき弱き者達が声を上げ世界を変える。ストレートなメッセージがしっかり物語の核となり、さらに驚きの映像、笑える小ネタ、爽快なアクションにロマンチックなラブストーリーも。映画が好きになる映画。最高!

西川美和監督「すばらしき世界」

人生の大半を刑務所で過ごしてきた男・三上。出所し、今度こそはと堅気として生きる決意をするがその行く先々には様々な障壁がある。「社会」と折り合いをつけると言うことは様々な悪意や許し難い卑怯な振る舞い、心が踏みにじられるような事を飲み込むことなのか。映画を観終わり「すばらしき世界」というタイトルが文字通りに響くと同時にきつすぎる皮肉にも感じる。今僕たちが生きるこの世界は「すばらしき世界」なのか。主人公・三上がこの世界に観たのは希望か絶望か。とてつもなく優しく、ひどく残酷なゆらゆらと揺れる「すばらしき世界」。善と悪が内在する人間の複雑さ、そのどちらにも簡単に傾いてしまう危うさ。それは人間そのものであり、社会そのもの。当たり前だけどこの世界を「すばらしき世界」にするもしないも人間なんだな。主演の役所広司がとにかく素晴らしい。三上という男が歩んできた人生の過酷さ、それをどう生き抜いてきたかがしっかりと伝わる。変わりたいと願いながら、もがく姿の生々しさ、人間臭さ。演技とすら思えない、演じてると感じさせないぐらいに、その人生を生きてきた一人の人間として観えた。映画館を出て空を見上げながら街を歩き、この「世界」について考える。「すばらしき世界」をこの現実の世界への皮肉にしてしまわないように。

濱口竜介監督「ドライブ・マイ・カー」

いつも映画を観ると、素晴らしい!とか凄い!って言いがちなんだけど、なんというか安易な言葉では言い尽くせない。言葉では追いつかない映画体験だった。妻を亡くした演出家であり俳優の家福。広島で行われる演劇祭の為にマイカーで広島へ。映画祭の規約で現地での運転はドライバーに託されることに。そこで出会ったのが寡黙なドライバーみさき。家福が演劇祭の為に演出するのは多言語で演じられるチェーホフ「ワーニャ伯父さん」。脚本家であった妻・音のドラマに出演していたが、スキャンダルによりフリーになっている役者・高槻をはじめ国籍も性別も違う役者たちが集められ芝居が作られていく。その過程はとても独特で、家福は役者たちに何度も繰り返し本読みをさせる。それぞれの言語、その中には手話すらもありお互いがお互いの言葉を理解できないまま何度も何度も台詞が交わされるのだ。映画の中で特に印象的なシーン。亡き妻・音をめぐり車の中で交わされる家福と高槻の会話。ライターの西森路代さんがTwitterで「家福と高槻は、コントロールをしすぎる男とコントロールができない男ということで、表と裏。」と書いていたが、この表と裏が相まみえるシーン。音のことをわかりたい、理解したいと思い続ける二人。お互いの告白から得体のしれないモンスターのごとく浮かび上がる音の姿。そして彼らは気付く。「わからない」ということを「わかる」のだ。それにしてもこのシーンでの高槻=岡田将生が凄い。ギリギリのところから解き放たれたようにも、絶望の果てをみてしまったようにも見える。わかりたいと思っている間、決して触れることができなかった音の実像が、わからないということがわかった瞬間ふと目の前に現れる。そして二人は音から解き放たれるのだ。家福とみさきは最初お互いわかり合おうとも理解し合おうとも思っていない。でもみさきは家福の愛車を運転することで、その愛車が大切に扱われてきたことを感じ家福のことを理解する。家福もまたみさきの丁寧な運転から彼女のことを理解する。決して多くの言葉を交わさない二人だが、移動する車を通じてわかりあう。二人を乗せた車は同じ道程の反復から逸脱し、みさきがかって暮らした遠くの町に向けて走り出す。そこでみさきもまた自分自身を縛り付けていたものから解き放たれる。

とこんな風に長く書いているが、果たしてこれが正しい解釈なのかはわからない。というか考えれば考えるほどうまく掴めない。だからこそこの映画がずっと心の中に残り続けてしまうのだろう。

④フロリアン・ゼレール監督「ファーザー」

認知症の父と介護する娘。記憶が薄れ、揺らぎ、現実が歪んでいく父の視点で描かれる。一体何が本当なのか。場所や時間、記憶が瞬間瞬間で書き換えられていく中で疑心暗鬼になり、何もかもが信じられなくなる。なるほどそういうことかと思う。とても穏やかだった人が、歳をとり認知症の症状が出る中で周りの人を激しく傷つけることがある。自分もそのような場面に出くわしたことが幾度となくある。認知が壊れゆく恐怖と孤独。映画は観る者にその体験させる。消えていく記憶、不安の中に飲み込まれていく毎日。その仮想体験はあまりに強烈で、こんなにも孤独で心細くなるものなのかと恐怖すら感じた。胸が潰れるような想い。今まで介護する側の視点でしか見ていなかったが目から鱗というか、自分にとっても貴重な体験になった。観るべき映画。

⑤春本雄二郎監督「由宇子の天秤」

3年前の女子高生自殺事件を追うドキュメンタリーディレクターの由宇子。TV局との軋轢の中、事件の真相に迫る由宇子だが、父が経営する学習塾で起きたある出来事によって自らが当事者となっていく。観ている間も観終わってからもずっと心が揺れ続けている。凄まじい作品だった。天秤を揺らしているのは由宇子だけじゃない。すべての人間はそうして生きている。誰かの天秤が均衡を保とうとすれば、また別の誰かの天秤が揺れる。尤もらしい言い訳で折り合いをつけ、アンバランスな均衡を保とうとする。社会は大きな天秤の中で揺れ続けているのだ。映画は決して結論を出さない。誰かの正解が全てではなく、誰もがの正解ではない。社会に生きるとは誰もがが当事者であり常に天秤は揺れ続けている。真実はいとも簡単に目の前をすり抜け、均衡を崩す。観終わった後、カメラは観ている者の方を向き、問いかけるのだ。ドキュメンタリーのような語り口で、観る者を傍観者にはさせない力がある。うん、これは凄い映画を観た。

スパイク・リー監督「アメリカン・ユートピア

デイヴィット・バーンによるブロードウェイでの革新的なライブショーをスパイク・リー監督が映画化。しょっぱなからちょっと圧倒されちゃった。マーチングバンドのように体と楽器が一体化したメンバーたち、オールワイヤレスでコードから解放され繰り広げられる演奏、パフォーマンス。その革新的でありつつ、プリミティブな音楽の力にもってかれた。頭のてっぺんから足の先まで、その音楽に支配される瞬間が何度もあった。いやこれは噂以上に凄かったなー。

⑦岨手由貴子監督「あのこは貴族」

東京生まれ、東京育ちのお嬢様・華子。地方から出てきて名門大学に通うものの学費がままならず退学し、自力で生きる美紀。異なる“階層”に生きる二人の一瞬の邂逅。都会のデスロードからそれぞれが「自分の人生」を自分の足で歩きだす。これは静かなるマッドマックスだ。華子が育った厳格な上流階級と美紀が育った閉鎖的な田舎町は階層こそ違えど、そのシステム構造はまるで同じだ。一人の男性を間に二人は対峙することになるのだけど、台詞でもはっきりと言っているように二人が分断され攻撃しあうことはない。その必要はないのだ。二人が戦うべきは、二人を縛りつけるシステム。華子は、美紀と出会うことでそのことにはっきりと気づく。半ば諦めの中にいた美紀もまた覚醒していく。それぞれがそのシステムに疑問を投げかけ、自分の人生を生きようとする。そしてそのことが共闘になる。彼女たちのそばにいて、まさに自分の足で立って自分の人生を生きるそれぞれの友人、逸子と里英がいい。心強い友人の存在が、二人に勇気を与え、背中を押すことになる。「あのこは貴族」という物語は多くの人々にとってそんな「心強い友人」のような存在になるだろう。細やかで丁寧、しなやかで強い大傑作である。華子と美紀を演じる門脇麦水原希子は一見、配役逆ちゃうなんて思ってしまったけど、これで大正解。逸子役の石橋静河、里英役の山下リオを合わせてこの4人が素晴らしくいい。

今泉力哉監督「街の上で」

下北沢を舞台に古着屋で働く青を取り巻く人々の群像劇。といっても大きな物語があるわけではなく、街の上で日々起こっているであろう小さな日常が描かれる。街と文化、そこに集う人々。日々の営み、そこにあるちょっとした可笑しみや愛しい瞬間。決して映画にならないような、零れ落ちていく日常。それが愛を持って切り取られていく。映画館にいる自分たちと地続きでありながら、とてつもなく豊かで愛らしい。映画らしくないけど映画としか言えない映画。こういう作品に出合うと映画好きでよかったなと心底思う。コントのような小さな出来事がちょっとづつ絡み合いながらじわじわと沁み込んでくる感じがシティボーイズショーをふと思い出した。俳優陣が皆いい。若葉竜也の佇まい、街への馴染み具合は本当に素晴らしい。ずっと観ていられる。130分、いい時間を過ごせたな。入江陽さんの音楽も最高。

⑨デレク・ツァン監督「ソウルメイト/七月と安生」

13歳の時に出会って以来親友の七月と安生。自由気ままに生きる安生と自らを閉じ込め自由に生きられない七月。強く結びつきながらも時に衝突し離れてしまう愛憎をも越えた2人の友情。あることがきっかけに反転する二人の人生。そこにある秘密。なんて繊細で美しく悲しく愛おしい物語なのか。素晴らしかった!世界的に高い評価を受けた「少年の君」の公開に合わせて日本公開されたデレク・ツァン監督のデビュー作なのだけど、「少年の君」以上にこのデビュー作に心奪われた。主演はチョウ・ドンユイとマー・スーチュン。ともに素晴らしい演技!自由奔放で強さの中に繊細な心を持つ安生=チョウ・ドンユイ、自分を抑えながら心の奥で自由を求める七月=マー・スーチュン。二人が交わす視線、一瞬の表情の曇り、二人だけが見つめる世界。忘れえぬ映画がまた一本。デレク・ツァン監督はやくも次が観たくなった。

⑩吉野竜平監督「君は永遠にそいつらより若い」

地元の児童福祉職に就職も決まり、あとは卒論を出すだけのホリガイ。ある日同じ大学のイノギと出会う。「経験」の無いホリガイは他者の「痛み」を敏感に感じながらも、当事者ではない自分はその痛みに共感し手を差し伸べる資格がないのではないかと感じている。痛みに鈍感なふりをしてやり過ごしてきたホリガイだが、痛みの当事者であるイノギとの交流、対話を通じて自分の中にもある痛みを知り、他者の痛みに敏感である自分に向き合っていく。イノギをはじめホミネやヤスダといった彼女が数か月の短い時間で出会う人たちはそれぞれが彼女にとってそうであるように、映画を観ている者たちにとっても忘れえぬ人たちになっていく。タイトルである「君は永遠にそいつらより若い」、この言葉が光になる。瑞々しく真摯で丁寧な作品。ホリガイを演じる佐久間由衣、イノギを演じる奈緒、ともに素晴らしかった。とりまく若手男優陣もそれぞれ印象的で、決してキラキラはしてないけれど大切なことを語りかけてくる青春映画。とってもいい映画。おすすめ!

てな感じで10本を選びましたが、映画の好みも人それぞれ。でももしこの文章を読んで気になった作品があったらぜひ一度見てほしい。映画って面白いなーなんて感じてもらえたら嬉しい。

 

 

 

 

2021年12月25日~31日の話。

2021/12/25

7時半起床。1時間後には家を出て、アップリンク京都まで。朝からホン・ウォンチャン監督「ただ悪から救いたまえ」観る。国から見捨てられた暗殺者インナムと、ただただ凶暴な殺し屋レイ。日本-韓国-タイを舞台に壮絶な殺し合いを繰り広げる。久々にガツンとくる韓国ノワール。ファン・ジョンミン兄貴とイ・ジョンジェ。心ある殺し屋と心なき殺し屋。ノンストップの殺し合いながら、胸に迫るアクションノワール。インナムを手助けするユイを演じるパク・ジョンミンも素晴らしかった。いやー手榴弾で祝うクリスマスもいいもんだね。

続けて園子温監督「エッシャー通りの赤いポスト」を観る。映画のオーディションに集まった人々の群像劇。50名に及ぶ無名の役者たちの生命力がスクリーンにみなぎる。疾走するポエム。映画からはみ出していく瑞々しい衝動。天才・園子温の元気が出る映画!

radikoで「蛤御門のヘン」「爆笑問題カーボーイ」聴きながら御池から京都駅まで歩く。クリスマスにはチキンでしょということでなか卯で大好物の親子丼を。親子丼を食べると幸せな気分になるな。

2021/12/26

朝の内に妻と買い物に行って、帰ってからは年賀状印刷。毎度ながらなかなかに手間取る。なんとか印刷終わり、録画した番組の消化。もはや全く追いつかん。外は雪。夜は鍋。

2021/12/28

仕事納め。大掃除して退社。帰りに映画を一本。マシュー・ヴォーン監督「キングスマン:ファースト・エージェント」を観る。ちょっと思てたんとちゃうという感じもあったが、超絶アクションを楽しく堪能。

2021/12/29

妻の実家で恒例の餅つき。ま、餅つき機フル稼働だけど。出来上がった餅を皆で丸めながら、出来立ての餅をつまみ食い。こうして家で餅をつくのも僕らの親の代で最後かな。うちの実家でも毎年母が餅をついている。僕が子供の頃からずっとずっと続いているが、母も義母ももう70代。本来であれば自分たちが引き継ぐべきだが、いまだに親に頼りっきり。駄目だなぁ。

夜、水道橋博士さんの「藝人春秋Diary」の書評をアップする。読み終わってからひと月かかって書き上げた。書いては読み返し、書いては読み返しして。今年は博士さんの様々な活動に随分救われたし楽しませてもらった。せめてもの恩返しという気持ちもあり頑張って書き上げた。

2021/12/30

朝から水道橋博士さんからDMが届く。昨日アップした書評、博士さんのnote上でも掲載頂けることに。

note.com

博士さんは僕にとって「あなたに褒められたくて」のあなただ。自分の文が届いたことがとても嬉しい。

妻も娘も仕事。なので朝から京都シネマへ。ベニー・チャン監督「レイジング・ファイア」を観る。麻薬組織を追うチョン警部。かっての相棒だったンゴウはある事件がきっかけで悪の道に。正義に生きるチョンと闇に落ちたンゴウの壮絶な殺し合いが始まる。香港の街を舞台に繰り広げられるカーチェイスに銃撃戦(手榴弾もあるよ)に肉弾戦。凄まじいアクションのつるべ打ちに震える。

次の映画までの時間、サイゼリアでランチ。大好物のボロネーゼに今日は誕生日ということで贅沢にドリンクバー追加だ。相変わらず安上がりな男だぜ。

で続いての映画はチョ・ジンモ監督「雨とあなたの物語」。舞台は2003年。浪人生のヨンホは小学生の頃に出会ったソヨンが忘れられない。クラスも違いたった一言言葉を交わしただけで転校していったソヨンの住所を探し出し手紙を送る。病気で身体を動かすことすらできないの代わりに妹のソヒはソヨンになりすまし返信する。やがて二人は文を交わし合う。そして8年後-ってな穏やかでロマンティックなラブストーリー。良かった。好きだなー。主人公二人が最後まで出会わない。予感で終わらす憎い演出、ラストのサプライズ。くーっ!カン・ハヌル、チョン・ウヒ、そしてカン・ソラ。それぞれ素晴らしい。いい映画納めでした。

radikoで「蛤御門のヘン」など聴きながらのんびり京都駅まで歩いて、途中五条のマクドでマックシェイクのチョコ味。誕生日だからね。

映画を観て、好きなものを食べて、多くの人に一生懸命書いた文を読んでもらえた。今日は良き日である。

2021/12/31

朝からYouTube水道橋博士さんと町山智浩さんの対談。いつもながら学びが多い。そして最後に思わずもらい泣き。


www.youtube.com

ということで唐突に良いお年を。

 

水道橋博士「藝人春秋Diary」のはなし。

2021年10月18日、水道橋博士著「藝人春秋Diary」が発売された。

「藝人春秋」(2011年・文藝春秋刊)、そして「藝人春秋2上・下」(文庫化の際は「2」「3」表記・2016年・文藝春秋刊)に続く、水道橋博士のライフワークでもある「藝人春秋」シリーズの最新作だ。

週刊文春」に「週刊 藝人春秋Diary」として2017~2018に連載されたものに「その後のはなし」を加え再構成した作品で、江口寿史による60点にも及ぶ挿絵をすべて掲載。紆余曲折の末、連載していた大手出版社・文藝春秋からではなく、名前通りのスモール出版から出た560ページに及ぶ大著である。

週刊誌連載ということもあり、その時々の時事ネタを交えながら、博士がそれまでに出会った人たち、観てきたもの、触れてきたもの、感じたこと、考えたこと、様々なスターダストメモリーがそのすべてに日付を記したうえで綴られている。

2017年の元旦、家族旅行で訪れた沖縄でのエピソードから本書は始まる。舞台は賑やかなお正月の空港。一人の男を巡って水道橋博士ファミリーが会話を交わす。まるで映画のオープニングのような場面が「予告編」となり、沖縄の地で「スター(星)」キングコング西野亮廣と偶然のような必然で出会い、「本」について語り合った夜。この大著への期待が膨らむ、オープニングにふさわしいエピソード。

そこから、博士が出会った様々な人々とのエピソードが綴られていく。一つのエピソードが、膨大な過去の記憶を呼び起こし、また新たなエピソードを生む。星と星を結び星座を形作るように。

大好きなエピソードがいくつもある。例えば「竹下景子」の章。中学時代、一つ上の先輩が同人誌に寄せた--日記の文字がやがて音符になっていく--そんな独創的で先鋭的な小説に魅了され感激し、博士はその先輩に恋文ともいえるような手紙を送る。時は過ぎ先輩は高名な劇作家となり竹下景子主演の芝居を博士の地元・高円寺で公演する。そして40年の時を越えて、博士はかって恋文を送った先輩・坂手洋二と出会う。一編の短編小説、それも中学生が校内の同人誌に寄せただけの小さな小さな作品。その小さな作品に心奪われた同じく中学生の一人の読者が大切にその同人誌を保管し、40年の時を経てその小説のコピーを手に作者と邂逅する。こんな幸福な再会ってあり得るの。実に素敵な大河ロマンじゃないか。このエピソードを読むたびにとっても幸せな気持ちになる。

小泉今日子」の章も大好き。博士が敬愛するキョンキョンと出会った話を、メイク中の大久保佳代子に語る模様が描かれるのだが、その言葉の小気味よいリズム、大久保佳代子との会話から生みだされるグルーヴが実に気持ちいい。大久保佳代子本人の声が頭の中に聞こえてくるし、化粧前でどんどん「顔」が仕上がっていく様のなんともいえない可笑しさ。まるで講談のようにリズミカルな言葉に乗せられ、ストンとオチが決まる。この軽やかで爽やかな読後感は「藝人春秋」シリーズの新境地なのではないか。日記芸とも呼ぶべきキャッチーでグルーヴィーな一編。

三章には「藝人春秋」シリーズに又、又、又、三度登場、今回も博士を散々な目に合わせるのが「三又又三」だ。
なぜか「水戸黄門」をキーワードにその天才性を描くTBSアナウンサー「安住紳一郎」の章には、同じくアナウンサーの先輩・古舘伊知郎が客演し、安住の人間味溢れる一面に触れる。
古舘伊知郎は、この本に何度も現れる。
連載時、世間を賑わせた女性議員による「このハゲーーッ!!」騒動から「カツラKGB」として看過できないとばかりにその動向をハゲしくチェックする「O倉智昭」も「藝人春秋」シリーズの常連メンバーだ。
これらのエピソードでは「藝人春秋」シリーズのお約束ともいえる過剰なまでの巧みな言葉遊びがしっかり披露される。漫才師・水道橋博士の「芸」が感じられて、これまた楽し。

エピソードはまだまだ続く。人気を博した倉本聰脚本のドラマ「やすらぎの郷」からは「なんでも鑑定団」で一切喋らないことが話題になった「石坂浩二」が登場。人気番組「世界まるごとHOWマッチ」で共演した師匠・ビートたけしの言葉を引き、その博識で饒舌、魅力的な人物像に迫る。
そんな石坂浩二とかって恋仲だった「加賀まりこ」が続く。自身の生き様を描いた著作「とんがって本気」の書評を雑誌に寄せた博士を見つけ、彼女がとった行動は実にかっこよく、女優・加賀まりこのさっぱりと気高い魅力が溢れている。
和田アキ子」の章では50周年記念ライブから様々な「伝説」を振り返り、番組共演時に和田アキ子が見せた芸能人としての矜持に涙する。
またユーミン松任谷由美」の章では壮大なライブを4歳の息子と二人鑑賞したエピソードが語られ、その中には息子・たけし君が絵日記に書き残した文が引用される。4歳の子の小さな胸に残った大きな世界の光景。ライブ後楽屋裏で繰り広げられる大冒険も微笑ましい。
これらのエピソードでは芸能界で大御所と呼ばれる人たちの大御所たる所以が芸能界に潜り込んだジャーナリストの視線で活写される。

そして、人物描写は日本の芸能界だけにはとどまらない。
ウディ・アレン」の章ではNYでウディ・アレンと知り合った若い女優の話を聞き出し、その現役の都市伝説どおりの「ウディ・アレン」の「ウディ・アレン」ぶりに感嘆する。

世間を騒がせた時事ネタもどんどんと取り込まれていく。
「中学生へのビンタ」が世間をにぎわせた「日野皓正」の章ではダウンタウン松本人志爆笑問題太田光のそれぞれの見解を比較、その上に師匠・ビートたけしを置き、重層的に騒動を論じながら、最後は自身の体験した猪木の「闘魂ビンタ」エピソードでオチをつける。
離婚騒動の「松居一代」の章ではサスペンス仕立てで、著述家・紀田順一郎の著作「蔵書一代」を絡め「本」への偏愛が綴られるが、鋭い角度のオチを決めている。
人気が爆発した「ポケモンGO」に水を差し逆に大炎上となったクイズ王にして漫画家「やくみつる」には大量の火薬を仕込んで駆けつける。

文化人枠からは「みうらじゅん」。人違いエピソードはオープニングの沖縄旅行が舞台。その後、同趣向のエピソードの数々を陳列し、お風呂場での“珍”事件は爆笑必至。お風呂場での“珍”事件は爆笑必至。
そして博覧強記「荒俣宏」。驚くべき書籍蒐集エピソードに博士が目の当たりにした知の巨人ぶり。「藝人」という括りながら、こういった異色な人たちまでもが登場するのが面白い。彼らもまた「“藝”人」と呼ぶにふさわしい。

「オフィス北野」お家騒動のさなか共演した「新しい地図」とのエピソードでは「SMAP」と「たけし軍団」芸能界を長く生き抜いてきた二組が交差し、新しい一歩を踏み出すべく互いにエールを送り合う。
日本のスーパーアイドルの後には、韓国のスーパーアイドル「BIGBANG」が続く。リーダーG-DRAGONと誕生日が同じというわずかな接点すらも星座とみなし、そのスーパーな魅力を熱弁。

さらに音楽家枠。
若き音楽家であり、芥川賞候補の「尾崎世界観」とは、知られざる星の繋がりを感じさせる「文」を通じたエピソードが。
浅草キッド」の出囃子「東京ワッショイ」を唄った純・音楽家遠藤賢司」への追悼も。博士が最後に観たエンケンのライブ。そこには町山智浩が、宮藤官九郎が、園子温が、さらには遠藤ミチロウPANTAあがた森魚そして鈴木慶一が。星が一堂に会する人間交差点。その奇跡的な一夜に心震える。

さらに博士が愛好する格闘界からは格闘界の未来を背負う「那須川天心」を「藝人春秋」のリングにあげる。古典「平家物語」の那須与一の逸話をなぞり、その若き天才ぶりを讃える。
浅草キッド」の弟子「東京ダイナマイトハチミツ二郎と対戦するのはMr.ライアー・「大仁田厚」。その「ファイアー!」な対戦の場にはマキタスポーツプチ鹿島猫ひろしなどが顔を見せる。

「芸人」たちもたっぷり登場する。
笑点」の司会に就任した「春風亭昇太」。「昇天」疑惑が飛び出す、世にも珍妙な艶話。驚くべきことにこれが実話なのだから……。本人もお困りのことだろう。
松本人志」の章では、芸人の敬称についての考察。そして、その才能に敬意を込めて描き出す。
続く「萩本欽一」の章では笑芸史を紐解きつつ、それぞれが一国一城の主であり、弱肉強食の「野生の王国」であった芸人の世界が変化していくことについて。М―1王者・ウーマンラッシュアワー村本大輔」の章を通じて社会における芸人の存在とは?を問いかける。
また「島田洋七」の章は愛すべき芸人らしい芸人の姿が見える。ビートたけしの助言により「がばいばあちゃん」を書き、自力で大ベストセラーへと導いたそのバイタリティと「負けない組」の精神は今の博士にも通じている。博士が母の死を知った後、声をかけ肩を抱いたのもまた島田洋七その人だった。それもまた星の導きのようだ。

前作「藝人春秋2」のラストは「芝浜」と題し、立川談志と泰葉のエピソードが描かれている。まさにその後日談と言えるのが「春風亭小朝」の章。新幹線の車内で小朝が語る談志噺は美しい芸人論となり、博士の胸に刻まれる。
大竹まこと」には大瀧詠一との接点があり、こちらも「藝人春秋2」の後日談になっている。物語は現在進行形で続いている。星が星を呼び新たな物語へと発展していることがわかる。
笑福亭鶴瓶」の章では博士の母方の実家である「カモ井」がCMタレントとして若き日の鶴瓶を起用していたという知れれざる逸話が飛び出す。本人が語りださなければ誰もこんなことは知らないままであろう逸話だ。この逸話はももいろクローバーとの番組「桃色つるべ」で披露されるのだが、その裏には二つの別れの物語がある。一期一会の達人ともいえる笑福亭鶴瓶師匠の呼んだ奇跡のようでもある。

連載時に起こった出来事や自身に降りかかった騒動もネタになっていく。例えば爆笑問題太田光ナインティナイン岡村隆史との3すくみの「スリービルボード」ならぬ「スリーボードビリアン」騒動。「その後のはなし」ではその顛末や真意、拗れ続ける太田光との関係についてもしっかり綴られる。個人的には水道橋博士太田光の二人を繋げるのはやはり文だと思う。いつか二人が「たけし」について、「談志」について、「芸」についてを往復書簡でやり取りした本を出してほしい。タイトルは「こじれる二人」で。なんて、これはまた別の話。

登場するのはエンタメ界の住人だけではない。政治家たちもその俎上に載せられる。まるでドミノ倒しのごとく負の連鎖が続く政治家・石原伸晃。そのドミノを最初に倒したのが誰あろう、怪芸人・コラアゲンはいごうまんだった!という笑激スクープ。4年たった今もなお現在進行形で「おマヌケ」エピソードを更新しているという奇跡。
懲りずに何度も失言を繰り返す「麻生太郎」。漫画好きという側面を最初に世に放った博士が製造者責任を感じて、舌下事件の深層を考察する。
映画「華氏911」を巡って、後に総理の椅子に座ることになる「安部晋三」とのスリリングな会話を再現。
片山さつき」のテレビ局での無慈悲なふるまいにも容赦ない。(江口寿史の挿絵が、若い頃の本人を描いていて実に皮肉めいている)
「自分のことをエライ」と思っているかのような政治家たちに芸人・水道橋博士は対峙する。彼らの言葉、振る舞いを注意深く観察しその本性を炙り出す。さらにもう一人の政治家「野中広務」を置くことで、彼らの薄っぺらさが相対化されより鮮明になる。常に弱者の側に立ち、「勝ち組・負け組」には入らない「負けない組」を自認する水道橋博士の信念が垣間見られる。

全てのエピソードに添えられる江口寿史による挿絵もまた素晴らしい。美人画の名手、江口寿史が博士の出すお題に「絵」で応えていく。3枚収められた「ビートたけし」の肖像はどれも額装したいほどだし、「笑福亭鶴瓶」「高田文夫」「荒俣宏」といったおじさん画も素晴らしい。特に傑作なのが「太田光」。その目線、への字に曲げた口、いたずらっ子のようでもあり、狡猾な老人のようでもあり、芸人・太田光の芯を捉えたなんとも魅力的な絵である。この絵を受けて爆笑問題江口寿史をラジオのゲストに招く。リスナーからの「描きたいタレントは?」の問いに「吉岡里帆」と答えた江口寿史。早速そのリクエストに応え彼女のエピソードを綴る博士。そして江口寿史は絶品の美人画を仕上げる。そんな文と絵で交わされる二人の会話も本書の見どころ、読みどころ。
美人画と言えば島田洋七の姉さん、ビートたけしもその美しさに驚いた「剛力彩芽」のサイドストーリーも語られる。ここでは博士がかの前澤友作から口説かれた!?エピソードが。

さらにエピソードは続く。面白いのが「太川陽介」の章。妻・藤吉久美子に放たれた文春砲から「バス」をキーワードに「ぶっちゃあ」「蛭子能収」に乗り継ぎ語られるエピソード。そこには「たけし軍団」の結成秘話、「たけし軍団ファミリーヒストリー」と呼ぶべき話が、3週連続のバスにちなんだ連作で語られる。
続く「浅野忠信」の章では彼の「ファミリーヒストリー」が取り上げられ、「たけし軍団」との接点が浮かび上がる。

そんな中で起こる「ビートたけし独立」という衝撃の「オフィス北野」お家騒動。この騒動は連載時に起きた最大の事件だろう。「たけし独立」のスクープが放たれた日、その同日の二つのニュース「ホーキング博士死去」「オウム死刑囚移送」を絡め師匠への想いが綴られる。
どんな状況になろうとその師弟関係は揺るがない。博士にとって変わらぬ北極星であり続ける師匠・ビートたけし。その想いは本書のみならず博士の全ての言動に通底している。Netflixで配信が開始された「浅草キッド」が話題だ。若き日のビートたけしと師匠・深見千三郎の物語。そしてこの「藝人春秋」シリーズはもう一つの「浅草キッド」の物語と言えるだろう。そこには常に師匠であるビートたけしへ深い愛情と憧憬がある。ビートたけし深見千三郎を想うように、水道橋博士ビートたけしを想う。父から子へ、子から父へ。想いは交差し何物にも代えられない深い絆を生む。親子の関係を越えた師弟の関係。揺るぐことなどあろうはずがない。
博士は自分自身も関わる歴史の渦中で日記を綴りながら、やがて自身のファミリーヒストリーに踏み込んでいく。

倉敷出身の俳優「前野朋哉」のポスターを臨み、博士は青春時代を過ごした倉敷での日々を想う。悶々とした日々を過ごしながら夢見た「映画」や「文」の世界。青年「小野正芳」が憧れたルポライター竹中労」が伏線となり「樹木希林」との出会いにつながっていく。
まず稀代のロッケンローラー「内田裕也」との危険な邂逅がある。そして、今そこにある危機とばかりに「樹木希林」が博士の前に突如、降臨する。
樹木希林」とのエピソードを読むと人生の巡りあわせとはなんて不思議で素敵なものなんだと思ってしまう。反骨のルポライターに憧れた青年はやがて漫才師となり、ルポライターの目で芸能界を観察し「文」を書き始める。その「文」がきっかけとなり憧れたルポライターとも親交が深かった反骨の女優と出会う。そして女優は言う「あなたは私の同志なんだから!」と。二人が顔を合わせた時間は決して長くはないけれど、「女優」と「漫才師」という肩書を越えて、人として心の奥の深いところで二人が通じ合ったことがわかる。

いやはやなんとも凄い話があったもんだと驚いていると、間髪入れずにさらに上を行くエピソードが披露される。「人生の予告編」真打、古舘伊知郎の登場である。しかし、最後に古舘伊知郎が登場することは、この本の前の章で「予告」されているのだ。
古舘伊知郎による「人生には予告編がある」という驚愕のエピソードを受け、水道橋博士はこの芸能界最強の語り部に自らの「人生の予告編」エピソードを語りだす。語り部が、最後は聞き手となる構成の妙。
それは妻との出会いの物語。赤い糸ならぬ「文」という蜘蛛の糸で結ばれた二人の驚くべきエピソードはぜひ本書を手に取って読んでいただきたい。江口寿史画伯によるキュートでまぶい博士の奥様のイラストも必見。しかし話は二人だけの物語にはとどまらない。

最終章は母の死を師匠・ビートたけしに伝える場面から始まる。お通夜から葬儀での出来事が母への想いとともに綴られる。葬儀の際に博士は兄から生前、母が語っていた言葉を聞かされる。その言葉もまた「人生の予告編」だった。母は「文」が我が息子を救う大切なものだということをわかっていたのだ。そしてその2日後、妻の祖母の訃報が届く。この「妻の祖母」の存在が博士と奥様の物語を師匠・ビートたけしにまで繋げることになる。

2016年12月、NHKで放送された「ファミリーヒストリー 北野武」編。ここで発掘された歴史的な事実は驚きに満ちたものだった。亡くなった「妻の祖母」が北野家と密接な関係にあった事実の全貌が判明するのだ。
博士と奥様、二人を結んだ蜘蛛の糸のさらに奥には師匠・北野武とのつながりがあった。二人を結ぶ糸は蜘蛛の巣のごとく張り巡らされた歴史の中の一本であり、その糸の向こうには無限の広がりと不思議な縁が隠されている。注意深く糸を辿ればそこに宿命すら見えてくる。

筆者はこの本の出版後、17万字、新聞紙大12頁に及ぶ「1962-2021水道橋博士Life年表」をWebショップ「はかせのみせ」から購入した。文春での連載からこの「藝人春秋Diary」が生まれるまでの3年強がどれだけ険しく長い道のりだったのかを知った。博士は編集者・箕輪厚介との「HATASHIAI」で実際に殴り合う戦いにより歯を失い、満足に喋ることができなくなってしまう。漫才師としては致命的ともいえる状態となり、やがて1997年から更新され続けてきた日記は更新がストップ、博士は体調不良による長い休養生活に入っていく。
年表にはその期間、博士のそばに寄り添った奥様の日記が引用されている。それは想像をはるかに超える過酷なドキュメントであった。その中には衝撃的な一文がある。「もう日記も書かないし、本も書かない」。博士はそんな言葉を口にするまでに至っていた。
だが博士の日記の空白を、奥様の日記が埋めた。博士が「文」を手放そうとしたとき、寄り添い、見つめ、「文」で「文」を繋いだのだ。

日々を克明に記したダイアリーを通して「小野正芳」のファミリーヒストリーと「水道橋博士」のファミリーヒストリーが重なり、混ざり合っていく。ダイアリーの積み重ねがヒストリーを生む。日記を書くということは自分を見つめることだと思う。誰かが見ているんじゃない。自分が見ているのだ。だからこそ自分に恥じない毎日を送ろうとするし、懸命に生きる。そうして積み重ねた日々はやがて歴史になる。歴史はより良く生きた証なのだ。そこに都合のいい改竄なんてありえない。だって自分が見ているんだから。

「日記は俺の情熱、そして業」古川ロッパの言葉を引き、博士は「日記芸人」宣言する。2020年12月、博士の日記はついに再開する。再開された日記には毎日の食事や散歩、出会った人、感じたこと、観たもの、聴いたものが克明に記される。博士は日記再開を皮切りに本格復帰。ライブイベント「阿佐ヶ谷ヤング洋品店」こと「アサヤン」を旗揚げ、驚異の週イチのペースで敢行する。再開されたYouTubeでは「博士の異常な対談」をスタート。博士らしい、濃すぎる人選のインタビューが続く。連日行われるツイキャスではファンと語らい、イヤァーオと歌い、時に酩酊し寝落ちする姿すら見せる。もはやうんことちんこ以外は全て丸見えのリアル・トゥルーマン・ショー、人生を全録するかのように自分自身をさらけ出している。相変わらず徹底して過剰である。以前はその過剰さが危うく感じられることもあったが、復帰後の今は別の印象がある。不思議な多幸感、生の喜びがそこに感じられる。食事や散歩、人との出会い、語らい、学び、発信することすべてがより良く生きることに直結している。

Life goes onでありLife is Beautifulがそこにはある。

「藝人春秋Diary」に戻ろう。表紙には江口寿史画伯の手によるまっすぐに前を見る水道橋博士の肖像が描かれている。その目は出会った人々を見つめ、自分自身を見つめ、過去を見つめ、未来を見つめている。
帯文を担当するのは浅草キッドの育ての親であり「ボクを"文"の世界へいざなった師匠の一人」である「高田文夫」。心肺停止から生還し、今またラジオでは黄金時代では?と囁かれる高田先生による帯をめくれば「TAKESHI」の文字が胸に刻まれている。

そして本書の最後に置かれたのは江口寿史画伯によるある女性の似顔絵。どの挿絵より愛らしく輝いていて、希望の匂いがする。日記は歴史になり、「文」は未来につながっていく。

本書が発売された後のイベント「アサヤン 藝人春秋Diary大読書会」で、出演者の元「浅ヤン」ディレクターの高須氏は「読んだ後、家族の話がしたくなる」と言っていた。同感である。読み終わった時、浮かんだのは、母の顔であり、妻の顔であり、娘の顔だった。もちろん、恋人や親友の顔を思い浮かべる人もいるだろう。本書を読むと大切な人たちの顔が浮かぶはずだ。そして今日を、明日を、未来を、より良く生きようと思うだろう。もしかしたらこの本を読んで感じたことが「人生の予告編」になるかもしれない。いつか過去が未来を照らす。日記がその証明となる。

水道橋博士は今日も日記を綴っている。きっと明日も綴るだろう。「水道橋博士は日記をつけるために生きているのだ」。

ということで、水道橋博士著「藝人春秋Diary」おすすめです!

 

藝人春秋Diary

藝人春秋Diary

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2021年12月18日~24日の話。

2021/12/18

8時起床。朝ドラ観て、ゆっくり朝食。トーストと昨日の残りのクリームシチュー。新聞を読んで、随分前に録画してみていなかった庵野秀明のドキュメンタリーを観て、久しぶりに京都みなみ会館へ。今日は随分と寒い。冬が来たという感じは嫌いじゃない。

濱口竜介監督「偶然と想像」を観る。3本の短編からなるオムニバス映画。脚本を味わい、俳優たちの演技を堪能し、映画的空間に身を委ねる。なんというかすごく贅沢で豊かな映画体験をしたという感じ。偶然と想像がもたらす人生の悲喜劇。笑い、泣き、心が揺れた。それにしても俳優人たちが皆素晴らしかった。1話のビバリー昼ズでお馴染み、高田先生の後輩こと中島歩(映画「いとみち」でも印象的だった)と古川琴音のスリリングな会話、2話の渋川清彦は大学教授で文学者という今までになかった役柄で森郁月との感情を排したような言葉の応酬に惹きこまれた。そして3話。脚本に書かれた偶然と想像が生み出す奇跡を占部房子と河合青葉という力のある俳優が実体化する。観た人の心に温かい何かを産み落とす、素晴らしい物語だった。小さな大傑作!

行き帰りには角田さんの「蛤御門のヘン」。ゲストは柳田光司さんで演芸浪漫回。ビートきよし側から見たツービート結成秘話。もう一つのツービート。裏演芸史に光を当てる必聴回。さらにメルマ旬報での柳田さん角田さんの「戯れ言WEST(仮題)」。「街録Ch」への違和感、子育てによる学びや、趣味との両立など共感するとこ多し。

2021/12/19

久々に娘も休み。ゆっくり9時起き。妻と買い物。「マルコポロリ」のリットン軍団観て、M-1敗者復活を家族で観て、そのまま皆でお出かけ。祇園花月で「M-1ライブビューイング」を。スーパーマラドーナ藤崎マーケットギャロップ林がCM中にトーク入れつつ、皆でM-1を観るというもの。例年は家でおでん食べながら観るのだが、妻と娘が行くというのでついていくことに。テレビで見るのとはまた違った不思議な感覚。会場はほぼ満席で拍手や笑い声が実際に起こるので、受け具合が増幅される感じ。会場の爆笑具合からも結果には納得。

2021/12/20

ムーンライダーズ「LIVE2020 NAKANO SUNPLAZA」聴く。いやはや、これがオーバー60にもなるバンドの音か。キャリア中、最もソリッドでやばい音じゃないか。偉大なる大先輩たちの大暴れっぷりにひれ伏すしかない。

2021/12/21

先週のナイツのザ・ラジオショー、高田文夫先生ゲスト回を聴く。高田先生のスピード感あふれるトークが凄すぎる。これが一度心肺停止した人のトークか。ペースメイカーが入ってるってもはやターボ機能がついてるんじゃないか。ムーンライダーズとか高田先生とか、どんだけ元気なんだ。老いてますます盛ん。

2021/12/22

昼休みにずっと読んでいた水道橋博士さんがnoteにあげている「命懸けの虚構〜聞書・百瀬博教一代」を読み終わる。百瀬博教さんについては2003年頃、博士さんが頻繁に日記でその人となりを書いていたので興味をもって、ちょうど文庫で出た「プライドの怪人」を読んだりもした。改めてその濃厚すぎる人生の聞き書きを読み磁場が狂うような感覚に襲われる。昼休みのひと時、まるで別世界に連れていかれるように感じながら読んでいた。百瀬博教という人は強力過ぎて自分なら10km圏内にも近づくことができないだろうなと思う。がそれでも百瀬博教という存在を知り、その生き様に博士さんの文を通じて触れることで、弱い僕の心にも「百瀬博教」な成分が少し入り込む。例えば「出会いに照れない」なんて言葉一つが僕にも影響している。いやしかし「百瀬博教一代」これこそNetflix案件だろう。誰が演じられるのとも思うが。

2021/12/23

外回りのお供は「中川家のザ・ラジオ・ショー」。ゲストは「ずん」の二人でほっこりと面白い。正直言って営業仕事は心がやさぐれがちなので、このほっこり感に救われる。あとは「問わず語りの神田伯山」の映画「浅草キッド」から円丈師「ご乱心」~師弟関係の話に聴き入ったり、「ポッド許可局」でのM-1話など。ラジオをお供に、ラジオの仕事をする、ラジオデイズ。

2021/12/24

しかし今年も残すところ1週間か。年々、年末感がなくなってくるな。ついこの前、正月だったはずなのに。しかし今週の朝ドラ、上白石萌音編がどえらい終わり方からの深津絵里編。深津絵里の変わらぬ透明感たるや!クリスマスイブといっても何があるわけでもない。娘もそりゃまぁ出かけてるし、夕食は焼き魚に味噌汁。

 

今週聴いてた音楽は

  • 「LIVE 2020 NAKANO SUNPLAZA」ムーンライダーズ
  • 「Before I Die」Park Hye Jin
  • 「I can't believe it's not butter!」Keumbee
  • 「うた、ピアノ、ベース、ドラムス。」矢舟テツロー
  • 「前夜 ピチカート・ワン・イン・パースン」ピチカート・ワン
  • 「City Drive」Nahee
  • 「あの歌-1-」上白石萌音

 

2021年12月11日~17日の話。

2021/12/11

8時起床。レーズンパンとハムエッグ、ヨーグルトの朝食をとり、ゆっくりと新聞を読む。休日の朝は心地よい。午前中は部屋で日記を仕上げる。radikoプチ鹿島さんの新番組「19××」、それから水道橋博士さんゲスト回の「ビバリー昼ズ」。「藝人春秋Diary」について、映画「浅草キッド」について、高田先生、松村邦洋さんらと。主演、柳楽優弥の名前から「なぎら健一?」、「柳楽って三遊亭?」などと早口でぼけ倒す高田先生の「脳高速」ぶりに爆笑。この回転の速さ、ボケの手数、凄すぎる。そして「ビートたけし所作指導」松村さんの「ビートたけし」モノマネは日々アップデートされてて凄い。「最近のビートたけし」モノマネ、その口調、言葉選び、完全に憑依している。

ナポリタンの昼食の後、アレックスシネマで映画を一本。草野翔吾監督「彼女が好きなものは」を観る。ゲイであることを隠し暮らす高校生の純。BL好きを秘密にしている同級生の紗枝。急接近した二人は付き合うことになるのだが…。正直ノーマークだったのだが、結論から言うと素晴らしかった。自分がゲイであることを悩む純。それを知り大きく動揺する紗枝。頭では理解していても、いざ自分がその立場になった時どうなるのか。物語は切実に誠実にその先まで描く。若い二人が辿り着く場所は強く美しい。正直、おじさんはちょっと泣いた。主演の山田杏奈。最近よく見る名前だけどちゃんと観たのは初めて。次世代エースって感じだなぁ。素晴らしかった。

2021/12/12

昨日と同じ朝食。朝の内に妻と買い物。焼きそばの昼食のあとは、ひたすら録画の消化。「ガキ使」の口パクヒットスタジオに爆笑。「アメトーーク」「やすとものいたって真剣です」「アメリカの今を知るTV」など。買ったままだったドキュメンタリー特集の「BRUTUS」誌を熟読。

湿気た海苔が残ってたので佃煮にする。初めて作ったけど割と簡単でそこそこ美味しい。

夜はTVでさんまさん特番。ドラマは祖父・音一との物語。リサーチャー、エムカクさんのいい仕事!

2021/12/13

妻も娘も出かけてて晩御飯いらないということで、一人飯。白菜と揚げの煮物と冷凍の水餃子。もし独身のままだったらとしばし考える。それなりに生活はしていけただろうが。

2021/12/14

配信で水道橋博士さんの「アサヤンVo.26 Netflix浅草キッド』配信記念!!劇団ひとり劇場!」を観る。「浅草キッド」はずいぶん昔に読んだし、NHKドラマも印象に残ってる。だからか僕の中では深見千三郎中条静夫のイメージ。博士さんが演じた「浅草キッド浅草キッド」は残念ながら未見。以前深夜にTV放送されたとき録画に失敗して観られなかったのだ。しかし石倉三郎&博士のタップダンスには笑った。「アサヤン」はいつもどこかに「ビートたけし」愛が感じられるが、今回は「そのビートたけし」愛が炸裂。イベントで流された「オールナイトニッポン」の音源。師匠の死をラジオで笑い話に昇華する弟子・ビートたけし。その速射砲のごときキレッキレのトークに感動。そりゃ好きになるよ。

浅草キッド」観る為だけにもNetflix入んなきゃな。ますます時間が無くなるなー。

2021/12/15

自殺した近畿財務局の元職員、赤木さんの妻が真相究明のために起こした裁判。それに対して国がしたこと。さすがに酷すぎやしないか。こんなむちゃくちゃなことがまかり通る。何が民主主義だ。統計書き換えやらバカノマスクの保管問題だの、完全に狂ってる。暗澹たる思い。腹が立って寝られない。

2021/12/16

小西康陽プロデュースの矢舟テツロー「うた、ピアノ、ベース、ドラムス。」聴く。最高。昼間、外回りの営業中、同行していた同僚にピチカートとの出会いがいかに衝撃だったかを語る。デビュー12インチシングル「オードリィ・ヘプバーン・コンプレックス」。タイトルもジャケットも、もちろん曲も詞も声も音も全部が全部センスが良くって洗練されててそれでいてかわいくて。雑誌で観た彼らはいかにも都会のおしゃれな大学生ってな感じで、寝癖をつけてガピガピの学生服を着ていたクソダサい中学生の自分はただただ憧れた。それ以降のすべての作品に驚かされ、心を掴まれている。「うた、ピアノ、ベース、ドラムス。」なんでこんなアルバムが作れるんだろう。またしても心を掴まれた。

2021/12/17

やっと金曜。仕事終え、会社出ると風が冷たい。さぶーと震えながら足早に帰宅。土曜日に自作した海苔の佃煮がなかなか減らない。もはや白ご飯と5:5の割合で食べている。

今週聴いた音楽は

  • 「Savage」aespa
  • 「Light a Wish」LIGHTSUM
  • BLOSSOM」LABOUM
  • 「snowy night」Billlie
  • 「うた、ピアノ、ベース、ドラムス。」矢舟テツロー
  • 「G999」Moon Byul

 

2021年12月4日~10日の話。

2021/12/4

朝から妻と猫のクロを連れて病院へ。もう17歳の老猫。体調悪く点滴を打ってもらう。いったん帰宅し、散歩がてら商店街の散髪屋へ。待ち時間が1時間ほどだったので近くの図書館で雑誌などを読んで時間をつぶし、わずか10分ですっきり散髪。子供の頃に通った駅前の床屋は散髪の後にせんべいをくれた。あのせんべい、やけにおいしかったな。とふと思い出す。

帰宅し、チャーハン作って昼食。テレビつけると、口の悪い弁護士が相変わらず偉そうにテキトーな話をしてるので消す。

ユナイテッドシネマで映画を一本。バイロン・ハワード、ジャレド・ブッシュ監督「ミラベルと魔法だらけの家」を観る。魔法一家で一人だけ力を持たないミラベルが主人公。持たざる者を描きつつ、持たざるものなんていないのだと語る。それにしてもCGアニメーションの多彩な表現を観ているだけでも楽しいし、リン=マニュエル・ミランダによる音楽も素晴らしかった。吹き替えでは中尾ミエさんが良くって、ベテランの凄みを感じた。

夜は久々にスパイスカレーを作る。いつもながら何か足りない。これだ!というところに全く辿り着かないなー

2021/12/5

朝早く目が覚めたので、布団の中で昨日の「ズバリサタデー」を聴く。月一コメンテーターは水道橋博士さん。北野誠さんの口癖「せやねん」、球児師匠の「腰が痛ぇんだよ」ですべての会話が成立する話、笑った。

頼まれていた年賀状を届けに実家まで。今日は一人で「爆笑問題カーボーイ」聴きながら車を飛ばす。ファンヒーターが壊れたというので母と電気屋まで。日曜の朝、ショッピングモールの大型電気店はすでに人でいっぱい。手頃なファンヒーターと蛍光灯などを買う。叔父の家に寄って玄関の蛍光灯を変えたりと諸々お手伝い。実家で母手製のちらし寿司を。甘く煮た椎茸が子供の頃から大好物。錦糸卵と椎茸をいっぱい乗せて美味しく頂く。

帰宅し、YouTubeで「博士の異常な対談」を観る。町山智浩さんとの月一対談。僕にとっては先生とも呼ぶべき二人。学生時代、雑誌「宝島」の映画記事をむさぼるように読んだ。当時は知らなかったがそのほとんどは町山さんが担当したものだった。紹介されている映画を駅前のレンタルビデオ屋で借りては観た。ラジオでの映画評も「ストリーム」の「コラムの花道」時代から「たまむすび」での「アメリカ流れ者」と今に至るまで欠かさず聴いている。町山さんの映画評を通じて自分の世界は大きく広がったと思う。映画を観る楽しみを知ったし、映画を通じて世界を知り、人間を知った。町山さんの常に弱者の側に立つ姿勢にどれだけ影響されているか。もちろん博士さんも。そんな二人が政治の在り方について、サブカルという文化について、そして60歳からの生き方について語る。サブカルとは雑誌文化だったというのよくわかる。「宝島」「テッチー」「POP IND'S」「03」「ID-JAPAN」「スタジオボイス」「ブルータス」「ロッキンオン・ジャパン」「ミュージックマガジン」「TVブロス」「映画秘宝」etc.音楽誌、映画誌、カルチャー誌…80年代から90年代、僕の部屋は雑誌だらけだった。「TVブロス」が月刊になったときに定期購読を辞めそれ以来雑誌はたまに気になる特集があれば買うか、時折ネットカフェで「文春」をチェックする程度。サブカル雑誌の終着駅としての「文春」。言われてみれば。寂しくもあるが、その崩壊の原因はそれを伝えきれなかった自分たちでもある。


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しかしこの対談の中身の濃さよ。ぜひここから続く3本観てほしい。

2021/12/6

BSで中川家礼二友近の湯布院&別府贅沢列車旅を観る。昔、仕事で別府にはよく行ったなー。懐かしい。いつか落ち着いたら九州をゆっくりまわってみたい。九州地区の営業マンだったのはもう27年前の話。福岡、大分、長崎、佐賀、熊本、鹿児島、宮崎、地図を片手にレンタカーで随分回った。サラリーマンなり立てで仕事に必死で観光する余裕はなかったし、ネットもなく情報も乏しかったから食事もいつもチェーン店とかだったし。美味しいものを食べて温泉とか浸かってね。まーそんな日はしばらく来ないか。

三遊亭円丈師の訃報。小学生の時に「花王名人劇場」でみた創作落語「グリコ少年」は衝撃的だった。「おもしろいなー」と感激したことを今でも鮮明に覚えている。そして著作「御乱心」。ぐいぐいと惹きこまれる読書体験をした。読了した日の日記は↓

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2021/12/7

KIRINJIの新作。感触がカーネーションの新作にも似てる。ともに静かな熱量をはらんでいる。深い森の奥に引きずり込まれるような感覚。コロナ禍で生まれた音楽なんて簡単にまとめたくはないが、その中で熟成された音楽であることは間違いない。

2021/12/8

外回り営業のお供は中川家の「ザ・ラジオ・ショー」。なんてことない話が本当に楽しくて、聴きながら何度も声を出して笑ってしまう。ここんとこ毎週の楽しみ。兄・剛氏は僕と同い年。上にはまだ元気な師匠方が居て、下には勢いある若手がいっぱい。中間管理職的悲哀に共感&爆笑。

それから三遊亭白鳥さんゲスト回の「ラジオビバリー昼ズ」聴く。高田先生もまた偉大な先生だ。昭和~平成~令和に至る笑芸史をつぶさにそのギョロ目で見てきた凄み。三遊亭円丈師匠がいかに戦ってきたか、いかにその芸道を生きてきたかを語ってくれる。それをこうして聴かせてもらえるということがどれだけありがたいことか。白鳥さんの弟子ならではの愛情あふれる追悼。高田先生と笑いのめしながら円丈師匠を偲ぶ素晴らしい放送だった。

2021/12/9

家に帰ると娘がアマプラで「バチュラー」を熱心に見ている。いやー俺も、バチュラーになりたいよー。しかし思い返せば、もてない人生だった。童貞のまま死んでいくんじゃないかと思春期の頃は真剣に思ってたが、結婚も出来て子供もいるんだから、ま、十分か。しかしバチュラー、別世界というか別宇宙の話のようだ。ジャンルSFでしょという感じ。

2021/12/10

午後溜まっている代休をとる。行くところはやっぱり映画館。

アレックスシネマでエドガー・ライト監督「ラストナイト・イン・ソーホー」を観る。デザイナーを夢見るエロイーズは田舎町からロンドンのデザイン学校へ。60年代のロンドンが大好きな彼女だが、寮生活に馴染むことができずソーホーで一人暮らしを始めることに。そこで60年代ソーホーで歌手を目指すサンディの夢を見る。夢はやがて現実を侵食してくる。サンディは男に騙され、夢をはぎ取られやがて殺される。それを目撃したエロイーズは…ってな二つの時間軸が交じり合うサスペンスホラー。60年代ロンドンの音楽とファッションが物語に絡み、映画を分厚くする。夢を搾取される女性たち。今も続く問題を根底にシスターフッド的な要素もありつつ、サスペンスフルでショッキングな映画的見せ方も満載。見応えあったなー。エロイーズを演じるトーマシン・マッケンジー、サンディを演じるアニャ・テイラー=ジョイがともにすこぶる魅力的。アニャ・テイラー=ジョイのあの艶めかしさ、実に実に素晴らしかった。すっかり魅入られたなぁ。

歩いてユナイテッドシネマに移動。金曜の夜なんだからもう一本。和島香太郎監督「梅切らぬバカ」を観る。自閉症の息子とその母。二人の暮らしを中心に、隣に越してきた家族との関わり、グループホームや町内の人々との関わりが描かれる。すべての偏見が拭い去られるわけじゃないけど、それでも隣家との関係の変化に救われる。人をカテゴライズすることで、一人の人間として接するという当たり前のことが奪われてしまう。自分もそうならないようにしなければと思う。メッセージ性の強い、難しい映画ではないけど、母と息子のささやかで微笑ましい生活を観ながらそう感じた。加賀まりこ塚地武雅が素晴らしい。女優。加賀まりこをしっかり見てほしい映画でもあった。

帰宅し「最愛」。あと一話で収拾つくのか!?それにしても松下洸平君、いいねぇ。と今日も変な親父目線で。

今週聴いた音楽は

  • 「ELEVEN」IVE
  • 「Lady Soul」アレサ・フランクリン
  • 「crepuscular」KIRINJI
  • 「すばらしい世界~RELAX WORLD~」トベタ・バジュン
  • 「Dream」Choi Cello
  • SNS」Analgfish
  • 「虹の彼方」松江潤
  • うみねこゲイザー」無果汁団
  • 「Film noir ultime」浜崎容子
  • 「face」Flat Face
  • 「SYMPHONY」ブルー・ペパーズ

 

2021年11月27日~12月3日の話。

2021/11/27

朝から大阪へ。グランフロント大阪で「第7回大阪韓国映画祭」へ。怒涛の4本立て!

まずはソ・ジュンムン監督「輝く瞬間」から。済州島の海女ジノクの下に、彼女のドキュメンタリーを撮りたいとソウルからやってきたギョンフン。最初は冷たくあしらうジノクだったが、お互いの傷を知り二人は距離を縮めていく。傷ついた都会の青年が田舎暮らしの老女と出会い癒されていく話ね。なんて観ていたら話は思わぬ展開に!なんと70代の海女と30代の青年の切ない恋の物語に。年齢を超えた二人のラブロマンスが始まるのだ!ギョンフンはロバート秋山かあるいはウド鈴木か!?しかし物語は実にまっとうで恋の喜びと切なさを描く。辛い人生を歩んできた彼女に訪れる「輝く瞬間」。大ベテラン女優、コ・ドゥシムの名演が素晴らしい。IUが歌う「夜の手紙」が切なく響き、この嘘みたいなロマンスに胸が締め付けられるのだ。

続いてはイ・ジョングク監督「息子の名前で」。チェグンは半地下の家で暮らす運転代行のドライバー。なじみの定食屋で一人食事をし、寡黙に暮らす。彼は光州事件で多くの市民を攻撃しながら今ものうのうと暮らす当時の軍指揮者に近づく。「光州事件」はまだ終わっていないのだと強く訴える骨太社会派ドラマ。事件はまだ多くの人々の心に傷を残しているのだ。罪を償うことも、反省もないままに過去の物語として歴史の中に葬り去らせはしないという強い意志を感じる。チェグンを演じるのは名優、アン・ソンギ先生。重厚な演技で観る者を圧倒する。

さらにぺ・ジョンデ監督「光と鉄」を観る。ある夜起こった交通事故。一方の運転手は死に、もう一方は意識不明の植物状態に。事故から2年。夫を亡くしたヒジョと植物状態の夫を介護し続けるヨンナムが出会い、終わったはずの事故が再び動き出す。ヒジョとヨンナム、ヨンナムの娘ウンヨン、ヒジョの兄など事故にかかわった人々は「あの時、もしも…」という後悔に苛まれている。あまりに悲劇的な出来事が連鎖し、誰もが傷つき傷つけあう事態に。そこを抜けた悲劇はもはや笑えない喜劇の様相。そして最後に訪れる大オチ!もしかしたらこれが全員を救うことになるかもという余韻を残す。いやこれは強烈な映画だったなー。

最後にもう一本。チェ・ハナ監督「父親叫喚」。年下の高校生ホフンと恋に落ち妊娠した女子大生トイル。当然のごとく母と継父は大反対。家出したトイルは幼いころ別れた実の父を探す旅に。しかし出会った実父は思ってたんと違う!帰宅すると次はホフンが行方不明に。3人の「父」と、トイルと母の物語。前2本が重かった分、軽いコメディで楽しい。なんといってもトイルを演じるチョン・スジョン=クリスタルが最高。現役人類最高の美女(俺調べ)、クールビューティー、クリスタルが気が強くて理屈っぽいかと思えば無鉄砲なトイルを好演。大きなお腹を抱えた姿もなんともキュートで最高。眼福この上ない時間だった。

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帰宅後、テレビで「ドラフトコント」観る。又吉チームが面白かったかな。

2021/11/28

朝から買い物。母に頼まれていた年賀状の印刷。年に一度のプリンター起動で、これがなかなか大変。色がうまく出なかったり、インクが切れてたりでクリーニングやら諸々やって印刷始めるまでに1時間以上かかる。

午後、妻が配信チケットを購入していたダイアンの単独ライブツアー「まんざいさん」なんばグランド花月公演を観る。漫才たっぷり。最高に面白かった!ちょっとした違和感が徐々に広がっていき狂気の世界に放り込まれる。ポーカーフェイスで狂気の世界に生きるボケのユースケ、ひたすら困惑して最後は恐怖で叫びだす津田。アリ・アスター監督「ミッドサマー」の世界ではないか。

夜は夜で金属バットとランジャタイの祇園花月でのイベントを配信で。これまた妻のチョイス。妻は金属バットの大ファンで、一人でライブ観に行くほどなのだ。不謹慎、不道徳、危険な香りのする二組による漫才とトーク

2021/12/1

もう12月だよ。早ぇーよ。体感的には去年の今頃はまだ8月だった。しかし9月以降の畳みかけが凄いな。言ってる間に正月だよ。

2021/12/2

Spotifyで今年のまとめ。トップソング5曲のうち3曲が韓国のSSW、Choi Jungyoonで2曲はこれまた韓国のLOVELYZという偏った結果に。トップアーティストはLOVELYZ。ま、あれだけ聞いたらそうなるわな。

open.spotify.com

2021/12/3

外回り営業。今日もランチに迷う。国道を行ったり来たりしつつラーメン屋に。「替玉無料」の張り紙を見て、いきって替玉発注。…午後から仕事にならなかったな。

帰りにユナイテッドシネマに寄って映画を一本。アンディ・サーキス監督「ヴェノム レット・ゼア・ビー・カーネイジ」を観る。エディとヴェノムのバディぶりが楽し。ヴィランとなる連続殺人鬼クレタス役のウディ・ハレルソンがオードリー春日にしか見えない!ドガーといってドカーって感じで、ま、大味っちゃ大味なんだが、最後のあれ!そうですか、そうなって、そこにそう繋がっていきますか。いやまた次が楽しみになっちゃいますなー。

帰宅し、家族で「M-1準決勝」配信で。昨日の段階では波乱の決勝進出者という感じであったが、実際に観てみるとそれなりに納得。敗者復活は「ヘンダーソン」で。というのが妻、娘とも一致した意見。

ドラマ「最愛」を観てる。もはや吉高由里子よりも松下洸平にきゅんとする。そういえんば「おかえりモネ」観てた時も、清原果耶ちゃんよりも坂口健太郎君にときめいていた。もはや性別を越えて人類愛の域に達しているのかもしれない。

 

今週聴いてた音楽は