日々の泡。

popholic diary

2024年2月の話。その2

ということで2月に観たもの聴いたもののその2です

S・J・クラークソン監督「マダム・ウェブ」を観る。マーベル初の本格ミステリーサスペンスと銘打ってるものの、普通にアクションエンタメ。救急救命士として働くキャシー・ウェブ。ある日、不意の事故に巻き込まれたことから未来を予知できる能力が覚醒する。ある日地下鉄で偶然乗り合わせた3人の少女、彼女たちが殺される未来を予知したことからその死を回避すべくキャシーは動く。ってなお話。性格もバラバラな3人の少女だが、それぞれに孤独を抱えている。彼女たちとキャシーは、戦いの中で連携を深めていく。それはまた彼女たちの未来であり使命だったのだ。キャシーを演じるダコタ・ジョンソンをはじめ3人の少女たちのキャラクターがはっきりとしていて繋がっていく感じにワクワクする。ヒーローたちの前日譚であり、未来に物語が広がっていくラストも気持ちいい。さすがにマーベルはお話拡がり過ぎててもはや途中から入るのが難しい状態だけどけど、こっち(ソニーピクチャーズ)のマーベル作品はまだなんとか単体でも楽しめる。ちょっと懐かしい雰囲気もあるヒーロー映画。

ミン・ヨングン監督「ソウルメイト」を観る。「少年の君」のデレク・ツァン監督のデビュー作「ソウルメイト/七月と安生」のリメイク。「ソウルメイト/七月と安生」は大好きな作品で、2021年のベストにも入れているほど。今作は舞台を韓国・済州島に移しミソとハウンの16年に渡る友情を描く。何事にも慎重で引っ込み思案なハウン。ある日転校してきた自由奔放なミソと出会い、時間を共に過ごす中で二人はかけがえのない友になる。だが大人になり、ある出来事から小さなわだかまりを抱えたままミソは島を出て二人は疎遠になる。島で自分を抑えたまま堅実に暮らすハウン。自由にだが時に破滅的にたくましく生きるミソ。ぶつかり合いながらも続いていく友情、そして反転していく二人の人生。オリジナルにはない「絵」というモチーフが実に効いている。徹底的に写実的な絵を描くハウン、自由な発想で描くミソ。ハウンの目に映るミソ、ミソの目に映るハウン、そして見つめ合う二人。泣けたー。オリジナル版でチョウ・ドンユイが演じた役を演じるのはキム・ダミ!悲しみも痛みも飲み込んで自由に羽ばたこうとするミソを見事に演じる。ミソと出会ったことで殻を壊し本当の自分を獲得していくハウンを演じるチョン・ソニもまた素晴らしかった。

YouTube「みんなのテレビの記憶」高田文夫先生編を観る。貴重なTVバラエティ史が、高田先生の爆笑トークで語られる。とにかく話のスピードが速くて、挟まれるジョークの数の多さ、当意即妙な受け応え、まさにトンチが効くトークで凄い。令和ロマンより回転早い70代!


www.youtube.com

土田英生作・演出、MONO公演「御菓子司亀屋権太楼」観劇。和菓子屋「亀屋権太楼」を舞台に、10年の歳月を描く大河ドラマ。社長を継ぐ人格者の次男、それをよく思ってないいい加減な長男、叔父さんを慕うしっかり者のその娘、先代に恩義がある和菓子職人、10年バイトを続ける男、店を断ち直すために呼ばれた女性店長…10年の中で変わっていく彼らの関係性。ドラマチックなところは直接描かず、すっと時間の経過を示し変わっていく関係性を会話で見せていく。日常の中にある何気ない会話で物語を綴っていくMONOらしさは残しつつ、10年という長い期間、小刻みな舞台転換という新境地。シンプルでいながら工夫の凝らされた舞台装置、転換の仕方も面白い。そして物語の背景には、差別と偏見という社会問題や正しさとはという問いなどがとけ込んでいる。そのとけ込み具合が素晴らしい。全てではないがそれらは日常の一部であり、常にそこに潜んでいるのだ。さりげなくもチクリと胸に刺さる。ある種の残酷さもありながら、優しく、温かく、ちょっと切ない。MONO、最新作にして最高作だと思ったな。素晴らしかった。

MONO公演は新しくできた扇町の劇場で観たのだが、想えば90年代今は亡き扇町ミュージアムスクエアへ妻と一緒にMONOの公演をよく観に行った。恋人~新婚時代の話だ。今ではすっかり老夫婦となったが妻と二人、扇町でMONOの芝居を観る。それもまた良いね。

「不適切にもほどがある」を楽しみに観ている。このドラマに関してはネットなどを観てもいろいろ語られている。自分もまたモヤモヤがないわけじゃないけど、ちょっと思ったのはみんなクドカンに何もかも背負わせ過ぎじゃないか。そして「物語」が「物語」として受け入れられない時代なのかなとも思う。登場人物たちのセリフが全てオピニオンだととらえられ物語が語られない。クドカン高田文夫先生に憧れ、松尾スズキに師事した喜劇作家。どうしようもなく人間臭くて、くだらない人間の業を描く物語の書き手で、そこも含めて人間賛歌を描ける作家だと思っている。だから大目に見てよとは言わない。批判は必要である。でも物語はまだ途中だ。ドラマは5話で大きく転換。クドカンの真骨頂という感じ。阿部サダヲの繊細な演技が光る。そして河合優実がとてつもなく素晴らしい。映画界では既に注目の俳優だったが、一気に人気も高まるだろうな。

とここまで書いたが、自分でもまだまとまらない。正しさとエンタメ。様々な人が指摘する問題点もわかる。だけどめちゃめちゃ面白いと思ってる自分もいる。ま、急がずに考えたいね。

宗像明将著「72年間のTOKYO、鈴木慶一の記憶」読了。鈴木慶一が生まれてから現在までを語りつくすインタビュー本。ムーンライダーズ鈴木慶一さんのことを知ったのは10代の頃。その頃から僕はずっと「鈴木慶一になりたいボーイ」だ。でこの本では慶一さんが自身72年の人生を語りつくす。話は音楽のことだけに留まらない。その裏の裏までもが赤裸々に語られる。例えば90年代、メンバー全員で借金を背負うことになる痺れる話から、北野映画における監督とのヒリヒリする関係まで。もちろんムーンライダーズという稀有なバンドの変遷、慶一さんが果たした役割やメンバーへの想いなどもたっぷりと。日本ロック史の大通りと路地裏を行き来しながら、音楽を追い求め、したたかにしなやかに生き抜いてきた音楽人生。リスペクトあるのみ。