日々の泡。

popholic diary

2023年5月13日~19日の話。

2023/5/13

朝から京都シネマへ。トッド・フィールド監督「TAR/ター」観る。「ター」と聞いて「えっ?桂文福師匠の伝記映画?」と勘違いした人がいたとかいないとか。決して河内音頭の闇営業をやりすぎて吉本を解雇された真相に迫る映画ではないのでお間違いないように。(しかし桂文福師匠の「たーっ!」を覚えている人がどれだけいるのか)

で改めて「TAR/ター」。世界最高峰のベルリンフィルの首席指揮者、リディア・ターの物語。その才能とカリスマで世界的な名声を得、絶大なる権力を誇るター。圧倒的な力でオーケストラを意のままに操り、まさに支配者として君臨する。しかし名声を維持する重圧や、振りかざした権力によって生まれた様々な軋轢がやがて彼女自身を追い詰めていく。この主人公が男性ならもっとわかりやすかっただろう。権力を振りかざし、パワハラ、セクハラでやがて失墜となれば話は早い。しかし主人公をかのケイト・ブランシェットが演じることで話はより複雑で重層的なものになる。まさに圧倒的なカリスマ性をもったケイト・ブランシェットがその圧倒的なカリスマ性を全開に天才指揮者を演じることで、この主人公がただのパワハラ・セクハラ指揮者では終わらない。天才であるがゆえにその振る舞いは時に横暴で冷徹。そして彼女は自分が思っている以上に絶大な力を持っている。その力に誰も太刀打ちできない。彼女自身もまたその絶大な力に飲み込まれていく。力を維持するために虚像という鎧を身にまとい、あらゆるものをその力で壊していく。そして傷つけた者の声なき叫びが、足元を揺らす不安として自分に跳ね返る。やがてはその強大な力で自分自身までも傷つけ壊してしまうのだ。ラストは解釈が分かれるところだろうが、僕にはある種ハッピーエンドにも思えた。力を失い、自分が犯してきた罪に気づき、彼女は本来の自分を取り戻し、生まれ変わる。そんな風に観た。しかしまぁ複雑で難解、でももう一回観たくなるぞくぞくする面白さがあった。ケイト・ブランシェット様の演技はもはや現役最高峰と言って差し支えないだろう。彼女以外に誰がTARを演じられようか。

で映画が始まる直前、さっと劇場に入ってきて一番前の左端の席に座った初老の男性。ちょうど僕の斜め前の席。スクリーンの光に照らされた横顔を観て驚いた。マスクをしていたがその特徴的な目元、白髪の短髪、頬に手を当てるしぐさ…映画が終わると同時に灯りがつく前にキャップをかぶり劇場を後にしたその男性は誰もが知る日本を代表する超有名俳優さんではないか!なぜこんな朝早く京都の映画館に。実際あとから調べてみると、その名優は京都に滞在しており午後には小劇場で観劇、アフタートークに飛び入り参加していた。その時の写真がSNSに上がっていたがキャップにシャツのその姿は僕が観た姿まんまだった。京都のミニシアター、朝10時前の上映で観客はわずか。そこであの名優といっしょに「TAR/ター」を観たなんて!しかし旅先の京都の小さな映画館の朝一の上映で昨日公開されたばかりの話題作を観ているとは。その超絶な演技力で日本の演劇、映画、ドラマでひときわ異彩を放つ怪優にして名優のフットワークの軽さ、貪欲さに感激!

で今日は1本に留めて、大津に戻る。また行きたいと思っていたスパイスカレーの店へ。チキンカレーと野菜のココナッツカレーの合い掛け。美味し!

そのまま商店街の床屋で散髪。すっきりする。映画とカレーと散髪で少し自分の機嫌を取る。

2023/5/14

朝からマンションの理事会。その後妻と買い物に行って、昼は上海風焼きそばを作る。オイスターソースと醤油にごま油、味の正解がいまいちわからないが。

午後の映画劇場はNETFLIXチョン・ジウ監督「ユ・ヨルの音楽アルバム」を観る。舞台は90年代、街の小さなパン屋で働くミス。そこに寡黙な青年ヒョヌが現れる。やがてそのパン屋で働くことになったヒョヌ。距離を縮め互いに好意を持つようになった二人だったが…。10代から30代まですれ違いながら紡いでいくラブストーリー。少しビターで静か、饒舌過ぎない語り口。主演はキム・ゴウンとチョン・ヘイン。確かな演技力とさわやかな雰囲気で、ともすればありがちな話をグッと魅力的にする。とにかくキム・ゴウンに身悶える。

2023/5/15

アマプラで「水もれ甲介」。1974年~75年に放送された石立鉄男主演の連続ドラマ。数話観たままになっていたので改めて続きを観始める。石立鉄男演じる甲介、原田大二郎演じる弟・輝夫、血のつながらない妹・朝美を中心に繰り広げられる笑って泣ける古き良きホームドラマ。喧嘩しながらも兄は弟を想い、弟は兄を想う。血の繋がらない妹を心配し心から大切に想うというストレートな家族愛が笑いたっぷりに描かれていて気持ちいい。煙草をぷかぷか吹かす俳優たち、路面電車に写り込む車や自販機が懐かしい。愛情深い母を演じる赤木春江、兄弟を面倒見る名古屋章などなど懐かしい昭和の名優たちもいいね。原田大二郎に恋するはっちゃん役の岸ユキが溌溂と明るくかわいらしい。まぁもちろん妹にビンタする兄なんて昭和な演出や強い家父長制の描写などもあるが、それを押し付けるようなことはしない。まだ戦争の影が残り、はみ出し者や弱い人たちへの温かい眼差しがあるから観ていられる。それにしても石立鉄男はやっぱり最高。表情、動き、口跡の良さ、笑わせ、泣かせの名演技に絶妙なアドリブ。いくらでも観ていられるワクワクするような楽しい演技なのだ。

2023/5/16

朝BSで「あまちゃんキョンキョンがアイドル語りする回。オールナイトニッポンでの熱いアイドル語りを聴いているので、キョンキョンがアイドルになれなかったもう一つの世界、マルチバースを観るよう。

TVerで「爆問×伯山の刺さルール」テレビ欄を観てのトーク。これまた昭和にワープ。86年の「メリークリスマスショー」を熱く語る太田さん。桑田佳祐ユーミン、吉川晃司などなど当時の人気ミュージシャンが一堂に会した音楽ショーで録画して何度も観たなぁ。戸田誠司さんがアレンジした原由子ユーミンアン・ルイスが歌う「年下の男の子」が最高だった。録画したビデオどこにいったやら。

2023/5/17

それにしても政治家の劣化ぶりにはあきれ果てる。ろくでもないデマや陰謀論を、ろくでもないデマや陰謀論だとわかりつつ意図的に拡散するような奴と、ろくでもないデマや陰謀論を、ろくでもないデマや陰謀論だと判断できずに鵜呑みにして拡散する奴。犯罪者予備軍みたいな輩を集めた野心丸出しの党とか、与党も野党も関係なしにろくでもない奴が多すぎやしないか。バカしか政治家になれないって国会で決まったのか。頭が痛くなるニュースばかりで嫌になる。

2023/5/18

「私のバカせまい史」で寝起きドッキリ史。アイドルの髪の毛を喰う鶴ちゃん!鶴太郎が日本で一番面白かった時期が確かにあった。あの頃、誰が今日の激シブ俳優・片岡鶴太郎を想像できたか。よくコメディアンが役者に転向すると森繁病なんて言われるが、ここまで立派に森繁病を貫徹し成し遂げた人がいたであろうか。

2023/5/19

久々に仕事で大阪へ。そんな日に限って雨が降る。しかし大阪はやっぱり人が多い。仕事終わり寄り道でもと思ったが、すっかり疲れ切ってそそくさと帰る。夕飯食べて、風呂入って、今日もまた「水もれ甲介」。今週は結局毎日観ていた。