日々の泡。

popholic diary

2023年4月8日~14日の話。

2023/4/8

天気はいいが少し肌寒い。radikoで「爆笑問題カーボーイ」。オープニングでは太田さんが文化放送で始まった新番組に絡めてシティボーイズについて愛情たっぷりに語る。シティボーイズが日本演芸史においていかに革新的であったか、そしてその影響力の大きさたるや。現在のお笑いライブの基本形態を作ったグループであり、ダウンタウンですらその影響下にあると言っても過言じゃない。太田さんもまたものすごくカッコ良くって憧れたと語っていた。徹底的に洗練されてお洒落なオープニング映像や音楽、ビジュアルでパッケージされたナンセンスでくだらなく、それでいてどこか哲学的なコント。90年代の渋谷系と呼ばれた音楽などにもシティボーイズが影響を与えているのではないか。考えれば考えるほどその存在の大きさに気付く。これ本格的に研究すべきだな。演芸史、いや日本エンタメ史におけるシティボーイズの重要性について。

radiko聴きつつ出かけたのは久々にTジョイ京都。まずはダーレン・アロノフスキー監督「ザ・ホエール」を観る。恋人を失い、引きこもり生活を続け重度の肥満となったチャーリー。自分の命がもう永くないと悟り、長く疎遠だった娘との関係を取り戻そうとするが…ってな話。家族を捨て、恋人に走った過去。その恋人が死を選んだこと。チャーリーは自分自身の真実、罪と罰や様々な悲しみをあたかもその厚い脂肪で覆い隠しているかのよう。オンライン講座の講師としてエッセイを教えるがカメラは覆い隠したままだ。自分の死が間近に迫って初めて彼は自分の真実に向き合うとする。久々に出会った娘は、邪悪さをまき散らしている。だがその邪悪さの芽はかって自分自身が娘に植え付けたものなのだ。そして無様な自分をさらけ出し、自分の真実と向き合い、娘と対峙していく。邪悪さの闇の中に足を突っ込んでいる娘を命をかけて救いだすのだ。葛藤し、覚悟を決め、真実に向かう。そんな男を特殊メイクの巨大な体で演じたブレンダン・フレイザーが素晴らしかった。

続いてキム・ホンソン監督「オオカミ狩り」を観る。舞台はフィリピンに逃走した凶悪犯罪者たちと護送官の刑事を乗せ、フィリピンから釜山に向かう貨物船。海の真ん中の監獄は出発早々犯罪者たちの反乱により、壮絶な殺し合いが始まる!ってな話だがほぼほぼ登場人物死んだところでまだ映画の1/3!(以下ネタバレあり)

貨物船には犯罪者、刑事そして文字通りの「怪物」が乗っていたのだ。いやはや物語のツイストの癖が強い!戦時中に実験の末生み出された殺人兵器。永い眠りから目覚めた怪物が血の匂いにつられさらに血を求める。犯罪者と刑事が共に手を取り逃げ惑う!口から鼻から頭から、ドバドバと流れる血の量5万トン!過去50年で観た映画の血の量をこの一本であっさり超えてきた。そして、そこでそいつ死ぬ?っつーか死ぬタイミング、そこ!?みたいな驚きの連続。バカじゃねーのというやり過ぎぶりに笑った。なんかこの韓国映画の過剰さ、久々で清々しい。すかっと爽やか、気分爽快な血みどろ暴力映画に拍手!面白かったー。

NHKで「ルポ 死亡退院 〜精神医療・闇の実態〜」を観る。あまりにひどい実態に言葉を失う。精神病患者を金の成る木として受け入れる病院。日常化する暴力、暴言、人としての尊厳を奪われ、酷い扱いをうける患者たち。行政が先導する社会構造が生んだ地獄。さすがにどんよりとする。

2023/4/9

朝から妻と選挙に行って、買い物。昼は春キャベツとウインナーのパスタ。

NETFLIXでアレッサンドロ・アロナディーオ監督「僕の人生に追いつくとき」を観る。保険会社に勤め忙しく日々を暮らす男。ある誕生日、ふと眠りから目覚めると自分が一年先の未来にいることに気付く。突然のタイムスリップに戸惑いながら、なんとか状況を飲み込もうとするも、ふとした瞬間さらにまた1年先の未来へ。数時間ごとに1年先、1年先とタイムスリップしていくのだ。1年過ぎるごとに、自分の想いとは裏腹な未来がそこにある。家族を大切にしたいと思っているのに、仕事に追われ社長にまで出世しているが、家庭は壊れ妻と子供は家を出ていっている。年をとればとるほど1年はあっという間に過ぎていく。何をやっていたのか思い出せないままあれもう一年経ったと呆然としてしまう。目先の忙しさを言い訳に、したいこと、すべきことを先延ばしにしているうちに時間ばかりが過ぎていく。そんな誰しもが身に覚えのある「人生あるある」を藤子F不二雄短編的なほろ苦いちょっと不思議な物語として描く。自分には痛いほど沁みた。ま、家庭こそ壊れていないし出世もそこそこまでだけど、何もかもを先送りにしたまま気づいたらもう50歳を越えている。いつか読もうと積んだままの本、1年が過ぎ、10年が過ぎ、20年が過ぎ、読まないまま死んでいくのか、それとも今からでも読み始めるのか。人生は長いようで短い。もう遅いのか、まだいけるのか。考えさせられる映画だった。

夜、選挙結果に…。カルト教団に関わっても誰も辞めないし、誰も気にもしない。選挙を金儲けの手段と考えるものが幅を利かす。歴史修正に差別主義、人権無視で独裁を良しとする嘘つきのクソ野郎ばかりじゃねーか。全く、嫌な国になっていく…

2023/4/10

月曜。昼休みの読書でここ数週間読んでいた高橋ユキ「つけびの村」読了。2013年7月わずか11人が暮らす山村で、2件の家から火の手が上がる。焼け跡からは5人の遺体。それも全員家事の前に撲殺されていた。そして「つけびして 煙り喜ぶ 田舎者」という不気味な張り紙を残した男が逮捕される。犯人の男は村八分に合っていたといううわさがネットに広がる中、筆者はこの山村で一体何が起こっていたのかを追う。典型的な日本の山村、老人ばかりが暮らす限界集落。のどかな田舎暮らしの裏にはどす黒い噂話が渦巻いていた。あの人はこうだ、その人はこうだ、誰もが噂話を口にし疑心暗鬼が広がっていく。多かれ少なかれ日本の田舎、いやそしてルポはやがて刑法第39条に言及していく。噂の渦に飲み込まれ妄想の中に閉じこもる犯人。「心神喪失者の行為は、罰しない。」という39条の運用、その判断の在り方。犯人は死刑を言い渡される。だが事件の真相は解明されず、罪人は心が壊れたままで自分の犯した罪に向き合うこともないのだ。空しすぎる事件の結末。いやはやどんよりするぜ。

2023/4/12

なぜか無性にパール兄弟を聴きたくなる。ずっと頭の中に「ケンタッキーの白い女」が流れてたので、87年の2nd「PEARLTRON」を聴く。バンドブーム真っただ中であった当時はなかなか理解されにくかったが、間違いなく大傑作アルバムだなー。サエキけんぞうの詞も窪田晴男のギター、サウンドディレクションも、バカボン鈴木松永俊弥のリズム隊モキレッキレっすね。手塚真が監督したMVも今見たらさらに味わい深い。っつーか最高じゃん。


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2023/4/13

朝からミサイル騒動。いつ落ちるのか、どこに落ちたるのか、何もかもわからないまま。まぁなんかいろいろ情けなくなってくるな、我が国は…。

録画していた「藤子・F・不二雄SF短編ドラマ」観る。原作に忠実な丁寧な作りで安心。F短編に漂うほろ苦さや諦観、F先生のB面にして本質。この乾いた感覚とクールな視線があったからこそ、夢や希望を描き続けられたのだと思う。これを機にF先生の傑作短編群が広く読まれることを望む。

2023/4/14

radikoで角田龍平の「蛤御門のヘン」。新コーナー「スミまで読ませて」で取り上げるのは黒岩知事メール騒動。不倫相手に黒岩知事が送った最高に最低な下ネタメールを嬉々として読み上げる角田さん。「バッカー!」「にゅるにゅる~」などのキラーフレーズを多用しつつニュースを掘り下げ、下ネタの使い方について黒岩知事に苦言を呈する。竹内イズムを継承する角田さんの真骨頂!香川照え先生とのやりとりも含め、ANNポッドキャスト時代を彷彿とさせる高尚なるくだらなさで笑ったなー。そして後半ゲストはチャップリン研究家・大野裕之さん2度目の登場。前回に続いての圧巻の喋り。チャップリンの日本人秘書、高野虎市さんについて、チャップリンと「五・一五事件」、そして淀川長治先生との邂逅と一気に引き込まれた。

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で夜はレイトショーでベン・アフレックス監督「AIR/エア」を観る。舞台は1984年、業績不振のナイキ・バスケットボールシューズ部門。立て直しを命じられたソニーが目を付けたのは、新人マイケル・ジョーダン。はたしてコンバースアディダスといった人気ブランドをライバルにジョーダンとの契約を取り付けられるのか。エア・ジョーダン誕生秘話が描かれる。マット・ディモンとベン・アフレックスの盟友がタッグを組んでの痛快お仕事ムービー。NIKEびんびん物語!オープニングの80年代映像カットアップでもうなんかワクワクする。80年代はぴったり10代を過ごした時代なので、なんだかんだでワクワクとした興奮がよみがえる。いなたいシンセの音色がもう嬉しい。負け犬チームが突飛なアイデアと行動力で仕掛ける一発逆転劇。ラストには主人公たちの実際の写真が出てその後の輝かしい功績が綴られるという王道パターン。現役サラリーマンとしては実際こんなにスカッと行くことなんかないのだけど、それでもちょっとした勇気をもらえる。俺も頑張るぞーなんて気持ちになる。よき映画だった。