日々の泡。

popholic diary

2021年7月10日~16日の話。

やっと土曜。久々に朝から京都みなみ会館へ。

まずは石井裕也監督「茜色に焼かれる」を観る。夫を交通事故で亡くしたシングルマザー田中良子。コロナ禍で経営するカフェを閉め、今はホームセンターと風俗店でのアルバイトを掛け持ちしながら息子を育てている。いじめにあう息子、理不尽なリストラ、社会の歪みが波を打って次々と彼女に襲いかかる。社会の上流から流れ落ちてくる醜く淀んだ泥水が彼女を追いつめていく。風俗店の同僚ケイもまた追いつめられた女性。平気な顔を装い社会の理不尽さに怒れない二人だが、まるで合わせ鏡のようにそれぞれの境遇を知り、その理不尽さに気付くのだ。男である僕は男であることを恥ずかしく感じた。なぜなら彼女たちを追いつめる社会の歪み、醜くよどんだ泥水は男の姿をしているからだ。弱い者がさらに弱い者を叩く。すべてのしわ寄せが女性たちに向かい、時に命さえ奪う。連携し、声を上げる二人の姿は他人事じゃない。

主演は尾野真千子。間違いなく彼女の代表作になるだろうし、ケイを演じた片山友希が実に素晴らしかった。あとどこかユーモラスなラストシーンの永瀬正敏に笑った。

続いてもう一本はチェコドキュメンタリー映画SNS 少女たちの10日間」。巨大なスタジオに作られた3つの子供部屋。童顔の女優3人が「12歳」という設定でSNSを通じ「友達募集」。そこに集まってきたのは10日間でなんと2458人もの成人男性。その一部始終をカメラは映し出す。いやはやこれもまた自分が男であることが恥ずかしくなる映画だった。出てくる男たちのクソっぷりたるや、おっさんの僕でさえ顔をそむけたくなるようなおぞましさ。SNSを通じて少女たちに近づく男たちもまた社会の歪みであり、醜く淀んだ泥水だ。自分より弱い者を求めて少女に行きついた男の姿をした社会の歪み。男こそ観るべき映画。

映画館への道中はradikoで「TOKYO SPEAK EASY」水道橋博士×古館伊知郎回。古館さんの無意識下での記憶の改竄。記録と照らし合わせそこを指摘しつつ、深層心理から意味と意図を読み取る博士。猪木愛によって書き換えられた記憶。改めてその真実に気付き古館さん一言「俺は舌先の小保方晴子だ!」面白い!

夜、アマプラ配信映画クリス・マッケイ監督「トゥモロー・ウォー」観る。2051年からやってきたタイムトラベラーたち。彼らは告げる、30年後人類はエイリアンとの戦いに敗れ絶滅すると。それを阻止するため現在の人々が未来に転送され未来人たちと共に戦うことに。いやはやとにかくこれ、敵のエイリアンがべらぼーに強くて笑った。絶対無理やん、勝てる気せーへんという戦闘シーン。知的なエイリアンならまだしも、もうただただ凶暴で人間を餌としてしか見てない野生っぷり。一番怖い奴やん。でそれをどうひっくり返すかという話。なかなか面白い。でもこれやっぱ大スクリーンで観たいやつ。

日曜。梅雨明け前だが、すでに夏バテという感じ。家でのんびり「ABCお笑いグランプリ」。カベポスターが面白かった。特に2本目のコントは二人の奥に広がりが感じられて新鮮な驚きがあった。

月曜。またまた水道橋博士さんのイベント「アサヤンVol.14 青空球児・好児 ゲロッパ!漫才道場」を観る。めちゃくちゃ面白かった!とにかく青空球児・好児師匠の漫才が凄すぎた。あの世とこの世を行き来するかのような球児師匠の表情!映画「ファーザー」のアンソニー・ホプキンスを越えている。大丈夫なのかと思わせつつ、キレッキレのフレーズを連発。そんな球児師匠を自在に操り、時に平気な顔をして誰よりも危険な球を投げ込む好児師匠。何度も声出して笑った。凄いものを観た!

asayan.s-hakase.com

 

火曜。仕事、いろいろと思うことあり。それぞれ見てる世界が違うんだなとつくづく思う。10人いれば10通りの見方、考え方がある。たびたび「優しい」「穏やか」などと評されることがある。でもそれは本当は違うんだ。怒りで怪物に変身してしまうハルクは、自分の怒りを制御している。彼はある時、キャプテン・アメリカに言うのだ。「秘密を教えよう。僕はいつも怒っている」と。まさにそんな気分でいる。

肉体的にも精神的にもハードな日々を過ごしてやっと金曜。

会社帰りに細田守監督「竜とそばかすの姫」を観る。 壮大で想像力と創造性が融合した素晴らしい映像。巨大で無限に広がっていく匿名の世界から、名前が見えるミニマムな現実世界へ。あっという間に増幅されていく悪意や間違った正義が小さな声をかき消す。困っている隣人に手を差し伸べる。そんな小さな優しさが、無数の匿名の暴力にかき消されていくのだ。そこを突き抜けていこうとする主人公の想いが光になる。素晴らしい映像と考えさせる物語。細田監督の最新作にして最高作ではないか。

で特筆すべきはその映像や物語を越えて圧倒的な力を持つ、中村佳穂の歌!とにかく彼女の歌が持つ原始的な響きが、圧倒的な説得力を持って物語を押し上げる。彼女の歌なくしては、もはや成立しないぐらいに。いやそれにしても京都が生んだこの天才シンガーの歌声が、全国の劇場に響き渡っていると思うと実に痛快である。彼女の歌は、この映画を通じて世界のど真ん中を突き破っていくだろう。

 

今週の一枚。猫は宇宙旅行の夢を見る。

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今週聴いた音楽

  • 【&】LOONA
  • 「Ombre」辻林美穂
  • 「AINOU」中村佳穂