2018ベスト映画
①「パディントン2」
②「タクシー運転手」
③「1987、ある闘いの真実」
④「ブラックパンサー」
⑤「愛しのアイリーン」
⑥「serch」
⑦「バトルオブセクシーズ」
⑧「万引き家族」
⑨「THE WITCH/魔女」
⑩「カメラを止めるな!」
⑪「レディバード」
⑫「わたしたち」
⑬「ペンタゴン・ペーパーズ」
⑭「スリービルボード」
⑮「15時17分発、パリ行き」
⑯「恋は雨上がりのように」
⑰「操作された都市」
⑱「きみの鳥はうたえる」
⑲「ボヘミアン・ラプソディ」
⑳「フロリダプロジェクト」
番外・チャンピオン作品「花筐」
2018年の観賞本数は計131本。ここ数年の平均ぐらい。基本は劇場観賞で一部旧作などはDVD。年末近くになってAmazonプライムに登録したので見逃してた作品や近隣で公開されなかった作品なども観ることができた。でも映画館がやっぱり好き。1人、暗闇の中で大きなスクリーンに映される別の人生を生きる。それが楽しいし、嬉しい。
でこうしてラインナップを見て作品を思い返せば、当たり前だけど「今」という時代に対して向き合った作品が多く、自分もまたそういった作品を求めていたことがわかる。社会、家族、女性、偏見と差別、そして人権。ここ数年、いやはっきり言うと現政権になってから、社会の状況はどんどんひどくなっているように感じる。偏見や差別、ヘイトが剥き出しにされ、それを隠そうともしない。ましてや恥ずかしいとも思わない。強いものに媚びへつらい、弱いものを叩く。想像力を失った恥知らずが大きな声で勇ましいことを言う。まともに生きていたら傷つくことばかりだ。
ま、ちょっと脱線したがそんな空気を感じながら、日常を生き、映画を観る。
「パディントン2」は言ってしまえば「希望の光」であった。とびきりキュートでチャーミング、ポップでカラフルな表現を使って徹底的にエンタメとして楽しく描きながら、今本当に大切なことを伝えようとしている。物語の奥には今の社会に潜む問題がちちりばめられている。パディントンという異端の存在。それを排斥しようとする者もいるが、その一方で多くの人々がパディントンという存在に触れ、その存在と繋がり、知ることで彼を愛する。市井の人々のありふれた小さな親切心や思いやり。その小さな行動の一つ一つがやがて大きな希望の光となる。映画から溢れる多幸感。なんかもう幸せすぎて涙が出たよ。ホントに素晴らしい映画体験だった。
「タクシー運転手」「1987、ある闘いの真実」はともに韓国の歴史に基づいた作品。わずか数年前に隣国で起きた出来事。より善き世界の為に、卑怯者であることを選ばなかった人々の物語。今の自国の状況と照らし合わせざるを得ない。これは過去の物語であると同時に未来の物語であるかもしれない。そんな怖さも感じながら観た。それは「ペンタゴンペーパーズ」も同様。そして"今"この映画を作らなければいけないという映画人の真摯な想いも強く伝わった。卑怯者であることを良しとするか否か。どう生きるんだと映画は問う。目の前にバトンを差し出す。確かにそのバトンを受け取った。
MARVELの新ヒーロー「ブラックパンサー」もまた"今"を生きる映画。黒人のヒーロー、女性たちの活躍、善と悪の単純な2分化ではなくそれぞれのなかに理屈があり理由がある。ただ力で圧倒するのではなく、思慮深く、その解決策を見いだそうとする新たなヒーロー像。無知であることを恥じず、未知のものを見下す姿勢がいかにダメなことか。
「バトルオブセクシーズ」も男VS女という単純な構図ではない。どちらもが属性に囚われることなく1人の人間として、他者を、自分自身を捉えることの大切さを教えてくれる。エマ・ストーンとスティーブ・カレル、二人の演技がとても素晴らしかった。「スリービルボード」もまた単純な物語ではなかった。それぞれのなかに理屈があり理由がある。絡まった糸を丁寧に解き、個も見て、知ることで新たな繋がりが生まれる。とても考えさせる作品だった。
「愛しのアイリーン」はとてつもなく凄まじく、とてつもなく美しい映画だった。最低の暮らし、最低の家族、最低の出会い、それでもそこに生まれた一瞬の奇跡。その美しさ。「万引き家族」もまた奇跡的な時間が描かれる"家族"の物語。社会から零れ落ちた者たちが紡いだ儚い時間。法律や制度、論理や倫理だけでは救えないもの。でもそれを救おうとするのもまた人である。「フロリダプロジェクト」にもそれはあった。
「search」「カメラを止めるな!」はともにその"仕掛け"が話題になったが、"仕掛け"以上のものがあったからこそ、多くの人に支持されたんだと思う。そしてどちらも娘の為に頑張るお父さんの話であり、映画館で観客が"体験"する映画。体験する映画ということで言えば「ボヘミアン・ラプソディ」も。ラスト20分、ライブ体験の圧倒的な力。でもそこに至る、零れ落ちた者と家族の物語がしっかりと胸に残る。
で今年も韓国映画を多く観た。前出の2作品以外にも、女子高生が殺人マシーンという超絶アクションエンタメ「THE WITCH/魔女」には大興奮したし、「操作された都市」も一捻りのあるアクションエンタメで楽しめた。またこの2作品とは真逆の「わたしたち」も素晴らしかった。二人の少女の繊細な心の動きを丁寧に描いた作品で、観ている間、ずっと胸が締め付けられた。
日本映画では「きみの鳥は歌える」が印象に残った。フィルムに閉じ込められた夜明け前のやるせない空気。明けない夜に漂う二人の男と一人の女。主演3人のアンサンブルがとても心地良かった。「恋は雨上がりのように」は拾い物。女子高生とおじさんの恋という謳い文句とは真逆で、恋愛ドラマでは全くなくて、挫折からの再生の物語。決して恋には発展しない二人。人間同士が出合い、それぞれが再生していく過程が描かれる。
80歳を越えるクリント・イーストウッド監督が辿りついた「15時17分発、パリ行き」も凄い作品だった。実際の事件を、実際に体験した本人に演じさせるという、まさかの本人出演再現ドラマ。まさに筋書きのないドラマなのだが、事実は小説より奇なりというか、全ての偶然は必然であるとしか言いようのない奇跡がそこにある。これが映画なのか、いや、これは映画でしかない!
で最後に大林宣彦監督の「花筐」。もはや順位などつけられず殿堂入りのチャンピオン作品とした。3時間近い大作ながら全編異常なまでのテンション、フィルムを切ったら血が流れ出すんじゃないかというぐらいの生命力、狂気の沙汰としか思えない映像の数々…あらゆるセオリーや文法を飛び越えつつ圧倒的に映画的であり映画そのもの。余命宣告までされた80歳になる監督が、ここまでの作品を作り上げるとは!一か所もありきたりな映像が無くどーかしてる映像のオンパレード。「この空の花」「野のなななのか」に続く戦争三部作にして監督の作家性が大爆発。アヴァンギャルドでありながら痛切なメッセージ性。映画という嘘で綴られた、真に真正面から叫ぶメッセージ。ユーモア、実験性、エロティシズム、押し寄せてくる過剰さ、そこに流れる赤い血。とにかく凄まじい映画である。憎悪と差別を隠そうともしない恥知らずが権力を握る狂った世界に対抗しうる狂気的なまでの正気。自分はやっぱり政治家より芸術家を信じるし、金より文化を愛しているんだなと再確認した。