日々の泡。

popholic diary

残月

さて早速ですが一昨日の話から…
仕事を半分で切り上げて大阪へ。インディアンカレーで腹ごしらえして少しブラブラ。で目指す先は梅田シャングリラ。そう政風会のライブだ。まさかこんな日が来るなんてね。
前日の月世界同様、ここも開場を前に集まる人々からはなんともいえない熱気が溢れてる。一体どんなことが起こるんだろうといった期待。なんせ20年ぶり、まさかの再結成。アルバムが出たこと自体がミラクル。そして開場。最前列を陣取るは知る人ぞ知る西村会の面々(笑)。それにしてもステージが近い。ここに置かれた2本のギターが、どんな音を奏でるんだろうとビール片手にワクワクしながら開演を待つ。さぁ客電が消えた。
ステージには二人の男。果たして一曲目は-。武骨なギターがポツリポツリと語りだす。85年に録音された未発表曲、07年のアルバムで世に出た「霧笛」だ。22年という時間がメビウスの輪のごとく、ぐるっと円を作って繋がる。一曲が終わり、次にギターが奏でた旋律を聴いた瞬間、胸が詰まった。
片面がカーネーション、片面が政風会というレコード「Duck Boat」は86年2月に発表された。僕が聴いたのは少し後、多分87年の頭だ。85年10月のムーンライダーズ「ANIMAL INDEX」を皮切りにすっかりライダーズのファンになった。続く12インチ「夏の日のオーガズム」、ライブ盤「The worst of MOONRIDERS」、で恐るべき傑作「Don't trust over thirty」。ライダーズの中でもとりわけ鈴木博文の曲が好きだった。A5版の「宝島」に載ってたモノクロの広告で「Duck Boat」というアルバムの存在は知っていたし、そのレコードが四条烏丸の十字屋には無くって、河原町ビブレの中のユリナレコードに一枚あることも判っていた。でもいかんせん小遣いが足りなかった。生まれて初めてのバイトは年賀状の配達。86年〜87年の冬。16歳の誕生日、僕は初めて女の子から好きだと言われた。なんて、それはまた別の話。そんな冬の日に、バイト代で手にしたレコードが「Duck Boat」だ。めちゃめちゃ聴いた。もう何回も聴いた旋律。「見晴らし台から」だ(はい、やっとライブに戻りましたよ)。博文さんの乾いた歌声が胸に刺さる。あの頃と同じように。
そして「水門」から「夜警」へ。「DUCK BOAT」からの曲が続く。「夜警」なんて何百回、何千回聴いたかわかんないよ。博文さんと直枝さんの声が重なるコーラス。胸の奥で16歳の俺が震えてやがる。おい、信じられるかい?36歳になってこうして生でこの曲を聴く日がくるなんてさ。笑っちゃって、泣けてくるね。見上げたステージ、スポットライトに照らされた二人。二人の音楽がこうして再び邂逅したように、16歳の俺と36歳の俺が邂逅する。あぁ息が出来ないよ。
二つのギターは馴れ合うことなく、ピーンと張り詰めた空気をビリビリと切り裂いていく。まるで禅問答のように音が呼応し合う。どこにもない、誰にも似てない音楽。ソロともバンドとも違う、紛れもない「政風会」の音がここにある。一曲終わるごとにため息。身動きできない。スゲーや。気まぐれな5分間の休憩をはさみソロコーナー。まずは博文さん。ソロアルバムから3曲。独特の緊張感、突き刺さってくるギターと唄。高校生の時、鈴木博文になりたかった。バカだなぁ。でもホントにそう思ってた。そして直枝さん。激しくギターを掻き鳴らし「ダイナマイト・ボイン」(!)。おぉ、凄い隠し玉。昨日のソロライブでも披露しなかったまさかの選曲。この曲、アコースティック弾き語りでやるかぁ。「おぉ」とどよめく会場の直枝ファン多数。心の中でひっくり返ってたでしょ、みんな。
そして再び二人で。新作からの曲がどんどん続く。バンドサウンドのアルバムとは違う剥き出しのアレンジ。ひたすら凶暴で優しくてぐいぐい引き込まれる。博文さんのブルースハープがまたド渋いんだ。飄々と暴走する博文さんに半ば呆れ嬉しそうに突っ込む直枝さん。MCもやたら可笑しい。政風会、最高だよ。
アンコールは「くれない埠頭」。直枝さんのヴォーカルがたまらんかったな。これぞ正調、湾岸サウンド。で「DUCK BOAT」のラストナンバー「裸足のリタ」。この曲、待ってた。遠い記憶が生々しくフラッシュバック。くそ憂鬱な部屋の隅。窓の向こうの電信柱、夜空に浮かぶ月。回るターンテーブル、胸を締め付けるメロディと言葉。ドア越しのリタがそこにいる。
アンコールラストは「大寒町」。もう何も言わなくていいね。真のスタンダードナンバー。ゆっくりとロマンが沈むよ。
それにしても二日連続で濃いライブ観たもんだ。負けじと濃い文章になっちゃったよ。はっきり言って書き疲れたけど、心地良かったりもする。ま、そんなとこです。