日々の泡。

popholic diary

鈴木祥子「ACOUSTIC TOUR WRITER」の話。

京都の老舗中の老舗ライブハウス「磔磔」が今回の会場。音楽好きなら誰もが知ってる伝説的なライブハウスだ。酒蔵を改造したそれは、京都の古くからの町並みの中で佇んでいる。200人も入ればいっぱいという小さなライブハウスではあるが数々の名演が生み出されてきただけあって、その雰囲気はただならぬものがある。

で今回のライブは鈴木祥子佐橋佳幸、告井延隆の3人によるアコースティックセット。会場の雰囲気も相まって期待は大きい。会場内でいっしょにいった友人Mとバカ話してる内に開演の時間。後方の階段から3人が降りてきてステージへ。音楽が奏でられる。たった3人での演奏。
途中、サイモン&ガーファンクルのフレーズが挟み込まれた一曲目「メロディ」。「ずっと磔磔でやるのが夢だった」というMCをはさみライブが転がり始める。鈴木祥子のピアノ、佐橋のギターに告井氏はボンゴ、ギター、ペダルスチール、胡弓と様々な楽器を持ち替えてアクセントをつけていく。これだけの小人数で、それもアコースティックでということだから、相当高い演奏力と集中力が必要とされる。とてもリラックスしたMCとは裏腹に彼らの演奏は程良い緊張感があり、音楽としての完成度は高い。しかしそんなものを越えたところで楽器同士が会話している。必要最小限の音はそれぞれが呼応しあい豊かで深い音楽を紡ぎ出す。「日本では唄が作られてもそれが唄い継がれるということが少なくとても寂しい」といったMCの後に鈴木祥子一人のピアノ弾き語りで唄われたのは、あの岡村靖幸の「イケナイコトカイ」。今回の目玉といってもいい素晴らしい名演。曲の間、何度も鳥肌がたった。
今回のライブメンバー告井氏のボーカルをフィーチャーしての氏が在籍するバンド・センチメンタルシティロマンスのカバー「恋の季節Part1」、佐橋氏ボーカルで氏のソロアルバムから「Me,Rosie&Some Folks」そしてビートルズのカバーなど次々と演奏されていく。最新アルバム「あたらしい愛の詩」から、また旧アルバムから「水の冠」「Swallow」「Sweet Sweet Baby」などなど名曲が唄われていく。3人の演奏は静かだが力強いグルーヴを生みだし、鈴木祥子のボーカルはいつにも増して僕らの胸にダイレクトに響く。「この愛を」で一旦ステージは終了。拍手は鳴り止むことなく狭い会場に響きわたる。拍手にせかせれるように3人が再び登場。とてもなごやかなMCと3人のハーモニーで聴かせるピーター、ポール&マリーのカバー。そしてライブ終了となるところだがまたも拍手鳴りやまず。誰一人席を立つ者は居ない。
予定外の2回目のアンコール。3人が3度の登場。「ここには音楽の妖精が住んでいるよう」という彼女のMCは僕ら観客全てが感じていたことでもあった。「何、演ってほしい?」という彼女の問いに客席から「危ない橋」という声。で「危ない橋」が演奏される。一つ一つの言葉が会場に響き客席に舞い落ちる。そして本当のラストナンバー「帰郷」。プレイヤーから発せられた言葉や音が音楽の妖精に運ばれ、オーディエンスの胸の内に届く。プレイヤーとオーディエンスが音楽を介して一つの時間を共有する。とても幸福で素晴らしい時間。そして音楽の魔法はいつまでもとけることはない。そのことを信じさせてくれる、とてもいいライブだった。