さて、2020年に観た映画の話 の続きです。
改めてMYベスト10の感想を自分のTweetから抜き出してまとめてみた。こんな感じです。
① 「はちどり」 (監督/キム・ボラ)
1994年、ソウル。14歳のウニが過ごす日々を描く。家と学校、自分を中心にした半径1kmの世界。この理不尽で窮屈な世界のことは世代も性別も国も違うけど僕もよく知っている。14歳だったことがあるから。
カメラは揺れ動くウニの心に寄り添い、彼女が観る世界を映す。少し風変りな塾の女性教師と出会い、彼女は自分自身の痛みの意味を知る。そして父や母、兄、姉、友人など自分以外の人にもまた世界があり痛みがあることを知るのだ。
14歳の長くて短い時間の中で、誰かと出会い、小さな事件をいくつも体験し、ウニは成長していく。半径1kmの世界、理不尽で窮屈な世界の外に、本当の世界があること知る。ラストシーンのウニの表情、眼差し。彼女は成長し、世界の見え方が変わっているということがはっきりとわかる。
キム・ボラ監督、これが長編一作目!主人公に寄り添いながら、主人公以外の人々にもまた世界があるということがちょっとしたシーンでわかり、主人公がそこに触れ、心が動いていく様が見える。素晴らしい演出。ラストシーンの力強い美しさ。2作目、3作目が既に楽しみ。
左利きのウニと左利きの女性教師ヨンジ。トランポリンで跳ねる姿と気持ちを持てあまし家の中でドスンドスンと跳ねようとする姿。小さなシーンを丁寧に積み重ね、主人公の世界が揺れながら拡がっていく様を見せる。噂にたがわぬ傑作。キム・ボラ監督恐るべし。
② 「ブックスマート 卒業前夜のパーティデビュー」 (監督/オリヴィア・ワイルド)
モリーとエイミーは親友同士。高校生活のすべてを勉強に捧げた二人が青春を取り戻すべく卒業式前夜パーティーデビューすることに。ってな青春コメディ。いやーもう最高!楽しくってパワフルでこっちも元気になった!
勉強一筋だった二人がパーティに参加すべくドタバタな展開になっていくのだが、その中で今まで軽蔑していたクラスメイト達のことを知り、それぞれの事情に触れ、より広い世界への一歩を豪快に踏み出していく。まさに「ブレックファストクラブ」なグッとくる青春映画。
主人公二人の掛け合いが楽しいし、まわりの珍妙なるクラスメイト達も最高!人種やセクシュアリティの描き方が多様で新しく、かつバカバカしく笑えてとてつもなくパワフル、でも青春ど真ん中でグッとくる。彼女らの行く末をずっと観ていたくなる。大好きな映画が1本増えた。
③ 「私をくいとめて」 (監督/大九明子)
まず最初に言わせて。大傑作!めちゃくちゃ面白かった!気ままなおひとりさま生活を送るみつ子が、恋をして…という自問自答映画。最初は恋愛メインの話かと思いきや中盤から一気に深いところに突っ込んで行く。ここまで斬り込んで行くんだというぐらい
社会の中で生きていく上で人は様々な鎧を身につけていかざるをえない。その苦しみや悲しみをどう乗り越えていくか。どう解放されていくかを実に映画的な表現で描いていく。その「映画的」な見せ方がPOPに突き抜けていて楽しく、この見せ方こそが最良にして最善と思える
主演はのん。全編出ずっぱりで80%は一人芝居、それもほぼドアップ。でもうこれが最高!主演女優賞とらなかったら嘘でしょ的名演。桂枝雀ばりの緊張と緩和。心の中を描く映画だが、これはもう心のアクション映画だ。
外と内の間にある「玄関」が象徴的に描かれているのは監督・大九明子×原作・綿矢りさの傑作「勝手にふるえてろ」を想起させるし、親友役の橋本愛とのシーンでは「あまちゃん」が浮かぶし、吉住のTHE W優勝も必然としか思えなくなる。全部のパズルがピタッとはまる感じがある。
とにかく女優のんの代表作来た!という感じで、なんでこんな凄い天才女優を使えないんでいたんだとここ数年のエンタメ業界を叱りつけたくなる。これからもうがんがんに演技してもらいたい。
④ 「ストーリー・オブ・マイライフ 私の若草物語」 (監督/グレタ・ガーウィグ)
4姉妹が織りなす小さな喜びや悲しみ、夢と希望、挫折や後悔…積み重ねっていく出来事と過ぎ去りし日々。古典を原作としながら、今を描く新鮮さと瑞々しさ、躍動感があってとっても素敵な映画だったなー。
物語の主人公、原作者、そして監督自身が重なる鮮やかなラストが素晴らしい!ファンタスティック!と映画館で叫びたくなった。その見事なラストで最上級の活き活きとした今を生きる映画になった。グレタ・ガーウィグ監督のもとに集まったシアーシャ・ローナン、フローレンス・ピュー、エマ・ワトソン、そしてエリザ・スカンレンという最強の座組もいい!
⑤ 「燃ゆる女の肖像」 (監督/セリーヌ・シアマ)
18世紀フランス。望まぬ結婚を控える貴族の娘と彼女の肖像画を描く女性画家。二人が恋に落ち愛に生きた数日を描く。なんという気高さ、名画の品格。完璧なまでに美しい映画。
格調高くクラシカルでありながら女たちが寄り添い共闘する現代的なテーマもしっかりある。映画史的にも重要な作品として残り続けるだろう。ハッとするほどに美しいショットの数々が目に、心に焼き付く。
見る/見られる関係が反転し、二人は恋に落ちる。決して結ばれることのない愛の結末とその余韻。愛と芸術の関係、その深さを叩きつけるラストの畳みかけが凄い。完全に打ちのめされました。
⑥ 「パラサイト 半地下の家族」 (監督/ポン・ジュノ)
かなりハードルが上がっている状態で観たのだが、観終わってみればそのハードルすらはるか下の方に霞んで見える。こんなところにまで連れて行かれるんだと放心状態。ちょっともう別物というか、でもこれ紛れもなく「映画」なんだよなぁ。
「面白い」と言っても様々な「面白い」があるわけだがそのどれもに当てはまる「面白い」に溢れている。でもちろんそれだけで済まされる訳はなく、圧倒的な力でとんでもない場所まで放り投げられる。観終わって周りを見渡せば今まで観たことも無い景色が広がっていた
ソン・ガンホのあの表情が頭から離れない。とにかく大袈裟に聞こえるかもしれないが、映画の到達点を観てしまった。という感じだ。
レスリング部のエリート選手タイラーは恵まれた家庭に美しい恋人、何不自由ない生活を送っている。だが厳格な父親との軋轢、そのちょっとした綻びから大きな悲劇を生む。とここまでが前半。後半は妹エミリーが主人公となり再生の物語が始まる。傑作。
色彩、音楽、そして画面のサイズ。主人公たちの心の動きが映画全体を使って描かれる。なんて繊細で美しい映画なのか。ちょっとしたことで真っ逆さまに落ちていくタイラー。自らを責めながらやがてまた立ち上がろうとするエミリー。忘れがたき映画、忘れがたき人々。
エミリーを演じたテイラー・ラッセルが本当に素晴らしかった。彼女のことをずっとずっと観ていたいと思った。
⑧ 「カセットテープダイアリーズ」(監督/グリンダ・チャーダ)
1987年イギリスのルートンで暮らすパキスタン移民の少年ジャベド。閉鎖的な街、父との確執、毎日を悶々と過ごす彼。そんな中出会ったのはカセットテープから流れてくるブルース・スプリングスティーンだった!一言、最高っ!大好き!
音楽との出会いが少年の人生を変えていく。音楽の力が彼の背中を押す。扉が一つ、また一つと開いていく。そしてその過程で彼は大人になっていく。自分の人生を生きていくことで、自分以外の誰かにも人生があることを知る。
映画「はちどり」では主人公の少女は塾の先生と出会う。自分のことを理解してくれる存在を知り、大きな世界への一歩を踏み出す。ジェベドが出会うのはブルース・スプリングスティーン。まるで自分のことが歌われているように感じ、閉じた世界の外にある大きな世界へ一歩踏み出すのだ。
音楽が世界を変えることは出来ないかもしれないけれど、音楽が誰かの人生を変えることは出来る。これは断言できる。ジャベドと同じ1987年に16歳だった僕も、身を持ってそれを経験しているからだ。物の見方、考え方、生きる指針。カセットテープから流れてくる音楽が導いてくれた。
なんていうと大袈裟かもしれないけど、何かを好きになるってこういうことだし、何かを好きになったことがある人ならわかるはず。映画「カセットテープダイアリーズ」はある意味、音楽好きあるあるなのだ。愛すべきあるある!そう早く言いたい。音楽あるある言うよ。音楽に人生変えられる!
でもう一つ。映画の中で主人公は酷い差別にさらされる。街には分断が起こり、ヘイトが横行している。それにNoを叩きつけるのもまた音楽なのだ。決して簡単なことじゃないし、勇気のいることだけれど、声を上げることの大切さを映画は示唆する。
⑨ 「ジョジョ・ラビット」 (監督/タイカ・ワイティティ)
第二次世界大戦下のドイツ。10歳の少年ジョジョは空想の友人・ヒトラーとともに兵士を目指す。そんな彼が家で出会ったのは母により匿われていたユダヤ人の少女だった。なんと愛らしく、悲しく、そして気高いコメディなのか。素晴らしかった!
戦争のさなか、ナチスに憧れる靴紐も結べない少年ジョジョがユダヤ人少女との出会い、そして戦争の狂気の中で大人になっていく。事象だけを追えば重く苦しい話なのだが、映画は愛らしくユーモアに溢れ、力強くその先へと進む。抱きしめたくなるような映画。心底感動した。
主人公の少年が実にかわいらしく物語を健気に引っ張っていく。母親役のスカーレット・ヨハンソンは過去最高にチャーミング。またサム・ロックウェルが凄まじい存在感をみせる。そして監督、脚本、ヒトラー役を務めるタイカ・ワイティティ監督!天才かよ
⑩ 「アルプススタンドのはしの方」 (監督/城定秀夫)
瑞々しく清々しく気持ちの良い映画だった。舞台の真ん中で輝けなかった若者の中にある輝くものを優しく見つめ、舞台の真ん中で輝く人への敬意もある。青春映画のはしの方でありながらど真ん中。この先、多くの人に愛されるであろう作品。
自分はアルプススタンドにすら行かなかったクチで、人生の3分の2、いや4分の3を過ぎて「そんなもんだよ、しょうがない(©昭和のいる・こいる)」が身に沁みついてしまっている身だけども、もう一度送りバントぐらいはという心情になったな。