日々の泡。

popholic diary

2023年3月4日~10日の話。

2023/3/4

朝から映画館へ。MOVIX京都でサラ・コランジェロ監督「WORTH 命の値段」を観る。アメリカを襲った9.11テロ。その被害者と遺族への補償をどうするか。それぞれが航空会社を相手に訴訟をすれば、間違いなく航空会社は潰れ国のインフラに大いなる打撃を与えてしまう。そこで国は基金を設けそこから補償金を分配することに。しかしそれには被害者や遺族の同意が必要となる。2年という期限で7000人にのぼる被害者それぞれの命に値段をつけ交渉していかなければならないのだ。無謀ともいえるプロジェクトを指揮するのは弁護士のケン・ファインバーグ。果たしてこの無謀なプロジェクトは成功するのか。という真実の物語。主人公である弁護士のケンは被害者への聞き取りは部下に任せっきりで、方程式にあてはめ被害者一人一人の値段を機械的に決めていこうとする。こうすれば簡単じゃないかと高をくくっている実に高慢で冷徹な男。で結果ほとんど同意が得られないままに月日だけが流れていくのだ。そんな中、たまたまある被害者の妻の話を聞きケンは気づく。被害者も残された遺族も人であり、決して方程式では計算できないそれぞれの事情があるということを。そしてケンは部下たちとともに被害者一人一人から話を聞き、寄り添い、方程式を捨てそれぞれの命の価値を見出していく。こういう映画を観るとアメリカの底力を感じる。人間がその心や知性を正しく使って、隣人を助けようという姿勢が尊く美しい。ケンを演じルマイケル・キートンが素晴らしい。自らの過ちを認め、学び、人のために尽力する主人公の変化を見事に演じている。いい映画だった。

なか卯で親子丼とミニハイカラうどんのセット。やっぱりこれに落ち着く。いつ食べても美味しい。

でもう一本。スティーヴン・スピルバーグ監督「フェイブルマンズ」を観る。自由を愛する芸術家肌の母と天才肌の科学者である父の間に生まれたサミー・フェイブルマン少年。両親に連れられて観た「映画」に心奪われ、映画の虜に。やがて8ミリカメラを手に自ら映画を撮り始める。様々なアイデアを駆使し、物語を生み出し、観るものを驚かせる快感。しかし少年は無邪気なままではいられない。自分の撮影したフィルムに映された知りたくなかった真実。少年は映画の持つ怖さを思い知ると同時に、その怖さを操る術を自分が持っていることを悟る。スピルバーグ監督が自らの少年時代を描くハートウォーミングなお話…なんかとは全く違って、映画という麻薬に手を染め、修羅の道を行こうとする男の壮絶なお話であった。隠されていた真実を炙り出すことも出来れば、真実を捻じ曲げることも出来てしまう。フェイブルマン少年=スピルバーグ監督が手に入れた映画という魔術の恐ろしさよ。

フェイブルマン少年、誰かに似てるなぁと思ってたんだけど、わかった。ココリコ田中だ。ちょっと情けない感じの表情がそっくり。

2023/3/5

いつものごとく妻と買い物。近所で町家のイベントをやっていて、町家で手打ちそばを食べられるってんで妻と自転車のって出かける。蕎麦食べて町家をリノベーションした着物屋の見学をしてその後、珍しく妻を誘ってユナイテッドシネマまで。

ダニエルズ監督「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」を観る。コインランドリーを営むエヴリン。税金処理で領収書の山に頭を悩まし、お客の対応に、父の介護、夫は優しいだけで頼りにならず、娘が連れてくるガールフレンドを認めることができず疎遠な関係に。問題を抱えイライラと日々を過ごしている。ある日、“別の宇宙から来た夫”から「全宇宙を救えるのは君だけだ」と告げられマルチバースにジャンプ!っていったいどんな話なんだというぶっ飛んだストーリー。無限に広がるマルチバースには幾多もの自分がいる。結婚をせずに大スターになっている自分、料理の世界で凄腕シェフになっている自分、指がソーセージになっている(?)自分…そこには数限りない分岐点と可能性があった。そしてそんな自分の前に立ちはだかる「悪」は幾多もの娘。あらゆるマルチバースを理解し行き来する娘が辿り着いた先は虚無であり闇。すべての可能性は無意味だとすべてを壊し、自分自身すら闇に葬ろうとするのだ。次から次へとマルチバースを飛び交いながら目まぐるしく物語は展開、世界は広がっていくが、最後にはたった一つのメッセージとなって心のど真ん中にぶっ刺さる。エヴリンと娘、夫、父、税務署の職員までも人生の中にはいくつもの分岐点とそこから広がる可能性があった、それでもこの宇宙で、この現実を生きている。それは自分自身が選んできた道であり、その人生に選ばれてきたのだ。

わけわからんとかとっ散らかりすぎなんて意見もあるようだけど、個人的には全くそうは思わなったな。むしろそれがいいんじゃない!と言いたいぐらいに楽しめた。ミシェル・ヨーをはじめキー・ホイ・クァンジェイミー・リー・カーティスといった面々が演じる登場人物皆を愛おしく感じたし、いくつかの社会問題をテーマとして内包しながら、最後はあなたに会えてよかったと生を肯定するストレートなメッセージに心震えた。うん、僕は大好きだな。

2023/3/6

ここんとこ昼休みには20~30分だけど本を読むようにしている。で樋口毅宏「さらば雑司ヶ谷」読了。文庫になった時にすぐ買っていたにも関わらず、何となくずるずる積読本になってしまっていた。なぜ今なのかはわからないが、ふと手にして読み始めると一気にその世界に引き込まれた。まさにタランティーノ的に様々なポップカルチャーマッシュアップ、時にハードに時にセンチメンタルに、めっぽう面白く饒舌にまくしたてる。「メルマ旬報」などでその文章はずっと読んでいたが、この面白過ぎる処女作をなんでもっと早く読まなかったのか。俺の馬鹿と言いたい。

でこの作品が発表されたときに話題になったのは、甘味処の女将が「笑っていいとも」で小沢健二の歌詞の素晴らしさについて語るタモリの言葉を引用し、人類史上最高の音楽家オザケンと断言するくだり。フリッパーズギターの1stアルバムからリアルタイムでずっと聴いてきた小沢健二。しかしライブに行ったのは2016年6月の「魔法的」ツアーが初めてだった。京都でラーメン店を営む古くからの友人が、チケットがあるからと誘ってくれたのだ。そのチケット、元々はラーメン店の常連さんがとったもので、ダブって取れたからと友人の手に渡り、誘ってくれたのだ。でその常連さんというのが、当時京都に暮らしていた樋口毅宏さんだったのだ。樋口さんは知る由もない話だが、魔法的ともいえる奇縁を勝手に感じている次第。

2023/3/7

仕事のことは基本書かない日記なのだが、ちょっとだけ。関わっている番組の収録立ち合い。リモートゲストはコラアゲンはいごうまんさん。以前からずっと出てもらいたくて、思い切って連絡して出ていただくことに。その話芸の素晴らしさ、面白さを一人でも多くの人に伝えたいと思うし、聞けば絶対伝わると思う。今は営業という立場だから、番組の内容にかかわることは正直難しいのだけど、自分がこの仕事をやっているのは結局こういうことだ。この人面白いでしょとか、この曲素晴らしいでしょとかを伝えたい。ただそれだけなんだよな。ま、この日記ブログもいわばそれだけで書いてる。

NHK+でETV「人知れず表現し続ける者たちIV」を観る。19歳の時から25年間、家から出ることなくキャンパスに向かい、描き続ける男。真夜中に唸りながら頭の中に溢れるイメージをただただ描く。描いても描いても溢れ出てくる、描くことで狂わずにいるのか、狂っているから描き続けるのか。生をむき出しにしたような絵の強烈さもさることながら、僕の人生とはなんだと朴訥に歌われる自作の歌、混じりっけなしの魂の歌がそこにあって耳が惹きつけられた。

2023/3/8

YouTube東映チャンネルで映画「ビューティ・ペア 真赤な青春」を観る。ってなにを観てるのか。ま、杉作J太郎さん激賞ということで。ビューティ・ペアが大ブームだったのは僕が小学1、2年生ぐらいの頃でその記憶が微かにある。ショートカットで宝塚の男役的なかっこよさがあるジャッキー佐藤と、和風美人のマキ上田のコンビ。そのブームを取り込み、フィクションとノンフィクションがまじりあう、まぁ珍品。セーラー服姿のジャッキーが推定年齢40オーバーの髭面男子高校生に絡まれるシーンやライバルのブラックペアが生活感あふれる屋上で反則技の猛練習などなどなんとも言えないシーンが続出。しかしながら当時の少女たちの心を鷲掴んだビューティペアの躍動感あふれる試合シーン、それを見る少女たちの熱狂と昭和風俗の貴重なドキュメントになっていて楽しめた。

2023/3/9

NHK+で「大奥」。堀田真由の家光編、仲里依紗の綱吉編ときて三浦透子の家重が登場。これまた鬼気迫る名演で素晴らしかった。物語の柱となる吉宗、冨永愛は演技としては未熟だが、その圧倒的な存在感とスター性でこれ以上ないほどのはまり役。男性と女性が逆転した世界ということで、女優たちが定型ではない演技を存分に見せていて皆素晴らしい。もっともっと多様な演技を観たいと思わせてくれる。

2023/3/10

日本アカデミー賞、仕事と子育ての両立の難しさ、その苦悩を正面から語る安藤サクラ。そして映画への愛を震える声ででもしっかりと語った岸井ゆきの。ともに心に残る素晴らしいスピーチだった。