日々の泡。

popholic diary

Big Boy Now

「…敏感ですね。もっと開いて下さい」男はそう言って、黒くて硬い「モノ」をグッと突き刺した。
「…か、堪忍して…」声にならない声が、個室の暗闇に消えていった。
固いベッドの上に、飛び散った体液と汚れたティッシュが無造作に散らかっている。
〜 〜 〜 〜
さて昨日はサーバーが混み合っていたのか、日記UP出来ず。ま、大した内容でもなかったからいいけど。で昨晩は9時までに全ての飲食は終わらせ夜更かしもせずに就寝。
で今朝7時起床。バイトの妻を見送り、眠る娘に「ちょっと出かけるから少し留守番しといてね」と声をかけ8時に家を出る。
駅前のクリニック、アポは8時15分。「…予約してたのですが」と言うやいなや「お待ちしてました!どうぞ」とすぐに個室に通される。
「じゃまずは胃の動き止めます」と左腕に筋肉注射を一本。「はい、喉の麻酔ね」と喉の奥にシュッシュと吹き付けられる。その時点で「オエっ」と数度えずく。「…喉弱いんです。すぐにえずくんです。大丈夫でしょうか…」とボク。白衣の男は穏やかに微笑んだ。
「さぁこちらで横になって」暗い個室の固いベッドに横たわる。「さぁ口を大きく開けて下さい。後は全てこちらでやりますから、ただ口を開けておいてください」。男は長くて黒い「モノ」を取り出す。
「オ、オェ、ゥオェ〜」。
「…敏感ですね。もっと開いて下さい」男はそう言って、黒くて硬い「モノ」をグッと突き刺した。
「ゥオッ!オェッグエッ〜」
「リラックスしてください。深呼吸して。大丈夫ですよ」。際限なくえずき、胃液を垂れ流すボクにティッシュを渡しながら看護婦さんが背中をポンポンと叩いてくれる。
しかし子供の頃から喉は敏感だった。小学校で「歯」の検査たび、口にちょっと鏡を入れられただけで「オエッ」とえずいていた。だからこうなることは予想していた。しかし予想を越えるえずきっぷり。人間、ここまでえずけるのか!というぐらいに。
「…か、堪忍して…」声にならない声が、個室の暗闇に消えていった。
頭上のモニターを観る余裕などあるはずもない。時間にしてわずか5分程度のはず、しかしながら「グエッ、ゥオォッ、ボヴェ〜」と無間地獄とはこのことか!と感じるぐらいの心持ち。
「はい、終わりましたよ」スルスルスルっと引き抜かれていく「胃カメラ」。
「…あ、ありがとうございます。ご迷惑おかけしました…」ぐったりとうなだれているのはボク。
固いベッドの上に、飛び散った体液と汚れたティッシュが無造作に散らかっている。
そんな訳で人生初の「胃カメラ」体験は終わった。病院着いてからここまでわずか15分ぐらいの話。実際カメラは素晴らしい手際の良さでスルスルと喉を通り、胃の内部を撮影、そしてまたスルスルっと引き抜かれた。先生の腕は確かで、普通の人ならなんなく終了だろう。
が極度に喉が敏感な僕は、まー、ホント、なんつーか、思い出しただけで、「オェッ〜」というわけだ。
胃カメラで撮影された胃の内部はきれいなピンク色。1箇所ポコッとできた小さな「イボ」は「過形成ポリープ」と言われるもので問題なしという結果。とにかく良かった。そして僕は大人になった。
まだ朝の9時前で既に大仕事終えた気分。帰ってまだ寝ている娘を起こし朝ごはん作ってやって洗濯物干して…といういつもの土曜日。昼はお腹に優しくうどんを一杯。
午後からもダラダラとHDDチェック。「リンカーン」「めちゃイケ」(やっと正月のスペシャルを)「志の輔越中座」「めがね番長」「徹子の部屋」(清水ミチコが「ミチコの部屋」として黒柳徹子を逆にインタビューする回、オモロ)バババッと。
夕方、映画観にいく。周防正行監督「それでもボクはやってない」観る。
なんなんだ、この感触。2時間を越える上映時間。裁判のシーンがほとんど。アクションもなければダンスもない。そして観終わった後に残るやりきれない気持ち。…でもこれは傑作やがな!
最後までダレるとこが全くない。映画ってフィクションで、嘘の世界。そんなことわかってるけど、もう映画越えちゃってるんだ。見せつけられた現実にクラクラと眩暈がする。沸き起こる感情は映画の向こう側に向かっている。「社会派」なんて聞くとそんな大層なって気持ちになるが、これはすぐそこにある社会。明日自分が巻き込まれるかもしれないホラー。「映画でしょ」なんて気分で観てられないのだ。これ一人でも多くの人に見てもらいたい。そしてもう一回、国家権力、裁判ってものをみんなで考え直しましょうや。
とここまでの気持ちにさせるのはやはり周防監督の緻密な脚本と演出の巧さ。主演の加瀬亮の色のついてない演技も素晴らしいが、脇を固めるのがずるいぐらいの芸達者揃い。役所広司は別格として、日本映画に欠かせないバイプレイヤー、お馴染み光石研本田博太郎(怪演!)をはじめ小日向文世(巧いんだ、また)、山本耕史尾美としのり田中哲司山本浩司(この二人の名前は憶えとくように)、お気に入りの唯野未歩子嬢などなど。そして瀬戸朝香が良し。今年の助演女優賞に軒並みノミネートされるだろうな。