日々の泡。

popholic diary

2023年2月18日~24日の話。

2023/2/18

朝から京都シネマへ。フラン・クランツ監督「対峙」を観る。ある教会の一室に二組の夫婦がやってくる。特に説明はなく、二組のぎこちない会話が始まる。舞台は殺風景な部屋、大きな動きはなくただただ会話が続く。会話の中から二組の関係が見えてくる。ある高校で起こった無差別殺人事件。一組はその被害者の、一組はその加害者の両親であることがわかる。ぎこちない会話はやがて対話になっていく。悲しみにゆがみ、怒りに震え、後悔に苛まれながら、なぜこうなってしまったのか、どこで間違ったのか、大きすぎる問いに二組は向き合っていく。二組の夫婦が味わった地獄、それ以前には決して戻ることはできない。それでも残されたものは生きていくほかないのだ。対話の果てに辿り着く赦し。揺れながら、戸惑いながらも、お互い真摯な言葉で向き合うことによりそこまで辿り着くのだ。まさに魂が揺さぶられる凄い作品だった。

サイゼリヤで遅い昼食を食べて、もう一本。パク・チャヌク監督「別れる決心」を観る。山頂から転落死した男。男の妻ソレを容疑者と疑い捜査する刑事ヘジュン。張り込みの車の中から、取調室で向かい合い、ヘジュンはソレを見つめ続ける。事件を追い、疑えば疑うほどに彼女に惹かれ、真相に近づけば近づくほどにのめり込み、やがては崩壊していくヘジュン。ソレは見つめられれば見つめられるほど、自覚的に自発的に体をまっすぐにして彼に向かう。帰れない二人の危うい道行。ソレの確信と覚悟、ヘジュンの弱さと狡さ。ハードな描写もなければほとんど触れ合うことすらなく、会話すら時に翻訳機を通して交わされるにも関わらず、その視線と動きで二人の間に濃密で濃厚な空気が沸き立つ。メロメロにメロウでありつつ、なにもかもが歪な大人のメロドラマ。静かでロマンティックなのに時に挟まれる変なギャグや狂ったユーモア。決まりまくるショットはスタイリッシュを越えてもはや面白ショットに。なんなんだこれは!この映画、変なんです。そうです、私がパク・チャヌクです。だっふんだ。と言ったかどうかは知らないが、まぁ、めちゃくちゃ変な映画なんだけど、これがもうめちゃくちゃ面白いんだから困ってしまう。観終わった瞬間、かもめんたるのコント見たみたいな気持ちになった。確かにこれは後を引く。考えれば考えるほどわからないし惹かれていく。冷静で完璧なパク・ヘイルと天然の美がだだ洩れるタン・ウェイ素晴らしかった。あとK-POPファンとしては「青春不敗」などのバラエティでお馴染みのコメディエンヌ、キム・シニョンがヘジュンの同僚刑事として登場し、いい味出してたのが嬉しい驚きだった。

2023/2/19

朝から妻と車で実家へ。車中では妻も好きなダイアンの「TOKYO STYLE」聴きつつ。で今日は父の17回忌。早いもんだ。お坊さんに来てもらってお経をあげ、お墓にも参って終了。父が亡くなったのは70歳。その歳まではまだ少しあるけど、あんな風に生きられるかなとかいろいろ考える。ま、考えすぎるとシリアスにならざる得ないのであまり考えないでおこう。でいつものごとくアレコレ食わしてもらってお腹いっぱいで帰宅。食べ過ぎたので晩御飯はお茶漬け。

2023/2/20

松本零士先生の訃報。小学三年生の夏休み。新京極の京都ロキシーで兄と親戚のこうちゃんと一緒に観たな。鉄郎とメーテルの別れのシーン。その切ない別れに子供ながら思わず涙が出たのを覚えている。当時は入れ替え制ではなかったのでそのまま続けてもう一回観た。それ以来、松本零士アニメ映画を見に行くのが夏休みや春休みの楽しみになった。キャプテンハーロッククイーンエメラルダス、トチロー…松本零士ワールドの住人たちがお互い行き来し宇宙を駆ける。今思えば早すぎたMCU松本零士シネマティックユニバースだ。

2023/2/21

寒い。朝から雪が降ってる。radiko小泉今日子オールナイトニッポンキョンキョンの80年代アイドルマニアぶりが炸裂。堀ちえみ中森明菜芳本美代子三田寛子などとの逸話も楽しく、80'sアイドルソングの隠れた名曲たっぷりの選曲も最高。電話ゲストは松村邦洋!「少女に何が起こったか」モノマネを繰り出す松村氏、面白過ぎる!とにかくキョンキョンのコロコロと転がるようなお喋りを聴いてると心が明るくなる。これぞアイドル。

2023/2/22

radiko文化放送でやった特番「SAYONARAシティボーイズ」聴く。大竹まこと、きたろう、斉木しげるシティボーイズ3人によるラジオコント。ゲスト、ピエール瀧を交えたトーク。古希を越え、もはやお爺さんと言っていい年齢になった3人のグダグダとしたトークが心地よく嬉しい。シティボーイズコントライブを初めて観たのは96年公演「丈夫な足場」。そりゃもうめちゃくちゃ衝撃的だった。壮大でひたすらバカバカしくそれでいてストーリーを感じさせるコント。小西康陽による洒落た音楽に、かっこいいオープニング映像などなど。それ以降、妻と一緒にシティボーイズコントライブに行くのが毎年の恒例になった。現時点で関西でやった最後の公演である2013年のシティボーイズミックス PRESENTS 「西瓜割の棒、あなたたちの春に、桜の下ではじめる準備を」までそれは続いた。まぁライブは相当に体力も使うだろうし、いろいろ難しい面もあろうけどやっぱり三人によるコントが見たい。番組の中で大竹さんが「ラジオコントはありかも」みたいな発言をされてたけど、それでも十分。年に一回ラジオコントの番組とかやってほしいな。

明石家さんまオールナイトニッポンradikoで。ゲストは笑福亭鶴瓶師匠。面白い!ノーガードで隙だらけ、相手に好きなだけ打ち込ませる鶴瓶師匠と、気持ちよく打ちまくるさんまさんのやりとりに笑いっぱなし。最高の組み合わせ。ただただ楽しく面白かった。

で営業車を走らせながら、カーラジオから流れてきた笑福亭笑瓶さんの訃報。さすがに若すぎるし不意打ち過ぎて言葉も出ない。

そして夜にはムーンライダーズ岡田徹さんの訃報が。しばし放心状態に陥る。さすがにまいった。

岡田徹さんの名前を知ったのはプロデューサーとしてだった。85年、PSY・Sの1stアルバム「Different View」。天才・松浦雅也が当時の最新鋭機器フェアライトを使って生み出した斬新なのにどこか懐かしいPOPなサウンドとチャカの強くグルーヴィーな歌声。初めて聴いた瞬間から大好きになって毎日のように繰り返し聴いていた。そのアルバムのプロデューサーとしてクレジットされていたのが岡田徹さん。当時同じようによく聴いていたZELDAのアルバム「空色帽子の日」のプロデューサーは白井良明さんで、リアルフィッシュ「天国一の大きなバンド」のプロデューサーは鈴木慶一さん。この3人がムーンライダーズというバンドのメンバーだと知った時の衝撃。そして1985年10月21日、ムーンライダーズ「ANIMAL INDEX」発売。そりゃ発売日に買うでしょ。でそこからはもうムーンライダーズの大ファンに。86年「DON’T TRUST OVER THIRTY」収録の「9月の海はクラゲの海」。慶一さんのヴォーカルが最も魅力的に聞こえるように作られた最高のポップソング。どれだけ聴いたかわからない。ライブアルバム「THE WORST OF MOONRIDERS」で「いとこ同士」や「さよならは夜明けの夢に」といった名曲に感動し、旧作を買い集め、岡田徹さんの作るメロディに心踊らされた。ムーンライダーズ、ソロ、ユニットと岡田さんの作品はその後、今に至るまで追いかけ聴き続けている。「涙は悲しさだけで、出来てるんじゃない」「ダイナマイトとクールガイ」「黒いシェパード」「ニットキャップマン」「Cool Dynamo,Right on」…親しみやすくPOPなんだけど、どこか幻想的で淡い空気感を持つ楽曲たち。本当に好きな曲が多すぎる。そしてプロデューサーとして残された作品たちもまた好きなものが多すぎる。前出のPSY・Sパール兄弟Nav Katzeチロリン、プラチナKITなどなどのプロデュース作だ。新人アーティストをプロデュースすることが多かった岡田さん。それぞれのアーティストの魅力を最大限に引き出し、その魅力を広くリスナーにちゃんと伝わるように導く。それはアーティストだけでなく僕たちリスナーにとってもありがたいことだった。岡田さんのプロデュース作というだけで信用できたし、実際前出したアーティストたちと出会い、その音楽に魅了され、30年以上たった今も聴き続けているんだから。岡田徹さんからもらった音楽の贈り物はあまりに多く、大きく、かけがえがない。ありがとうございましたとしか言えない。そしてこの先も、僕は岡田さんが残してくれた音楽を聴き続けるだろう。なにせ、好きな曲が多すぎるんだから。

2022/2/23

祝日。映画を一本。ペイトン・リード監督「アントマン&ワスプ クアントマニア」観る。若干、MARVEL作品観るのが義務化しちゃってきてるが、まぁ観ないわけには。物語はいたってシンプル。アントマン&ワスプ&爺ちゃん&祖母ちゃん&娘が量子世界で頑張る話。小さき者たちが征服者を打ち負かすという王道ストーリー。舞台が量子世界ということで小さくなったり大きくなったりというアクションがもはや普通に。小林亜星状態で増殖するアントマンとか個性強すぎのモブキャラたちとか面白いっちゃ面白いんだけどね。アントマンの娘、キャッシーを演じるのは「舞い上がれ」の舞ちゃん似のキャスリン・ニュートン。ここんとこ作品を通じてせっせと世代交代を進めるMARVEL。もちろん今後、キャスリン・ニュートンが新アベンジャーズとしても活躍していくことになるのだろう。

2022/2/24

昼休みに少しずつ読んでいた小林信彦「夢の砦」を読み終わる。30年以上も前に買った小林信彦の代表作ともいえる小説。何度も読み始めては挫折し、50を越えてやっと上下巻読み終えた。1960年代の東京を舞台に、雑誌編集者である主人公が「夢の砦」を築こうと試みるも、その夢は無残にも崩れ去っていく。テレビ黎明期、ギラギラと華やかなエンタメ業界が活写されると同時に、その裏で蠢く人たちの駆け引きが生々しく描かれる。なんだかこの前観た「バビロン」を思い出した。それにしてもほろ苦いなんてものじゃなく、飲み込めないぐらいに苦すぎるラストになんだか身につまされる。自分も30年会社員をやってきて泥水をすすらされてきたことが幾度となくある。今もまだすすっていると言っていい。小狡い奴ほどうまく立ち回る世の中だからな。なんてちょっとシニカルにもなってしまう。それでもね、まだ「夢の砦」をあきらめきれない自分もいる。