日々の泡。

popholic diary

2021年8月21日~8月27日の話。

8/21(土)

折角の土曜だけど用心しておとなしく家で過ごす。

しかしテレビは専門家でも何でもない声がでかいだけの弁護士になんでコロナについて語らせるの?観ていられない。

アマプラで韓国映画を一本。イム・ギョンテク監督「聖女 Mad Sister」を観る。ボクシング国家代表にもなったという女優、イ・シヨン主演。誘拐された妹を救うために立ち上がる姉。まぁそうなるわなぁという展開。イ・シヨンの真っ赤なドレスを着てのハードなアクションはさすが。韓国映画らしく痛みを感じる重量感のある殴り合い。

夜、テレビで「博士ちゃん」。芦田愛菜ちゃんは子役の時はこまっしゃくれた子だなと思っていたが、今やもう好感度しかない。敬語で話してしまいそう。で昭和の歌姫特集。70年生まれの自分はぴったりベストテン世代。幼稚園の時に買ってもらったピンクレディのシングル。10歳の時には松田聖子がデビュー。可憐で大好きだったなー。中森明菜の全盛期をリアルタイムで観られたのは今思えば贅沢なことだ。今はサブスクなどで過去の音楽に手軽にアクセスできる。昔に比べると1曲の重みは軽くなっているかもしれない。でもやっぱり出会いの場が広がることはいいことだと思う。歌謡曲を発見した10代の子供たちが生み出すであろう未来の音楽が楽しみでもある。

杉作J太郎さんの「ファニーナイト」をリアタイ聴取。千葉真一さんの「旅人とひとり」をこの番組で何十回と聴いたから、千葉さんの訃報を聞いて一番に杉作さんのことを想った。杉作さんの好きが電波を通じて、まさに波のように僕にも伝わっていた。好きなことや物を好きと言い続けることは大切だ。たとえ小さな石であっても投げなければ波紋は広がらない。

8/22(日)

いつものように午前中は妻と買い物。昼はやきそば。最近凝っているオイスターソースと中華ダシを使った上海風焼きそば。それなりの味にはなるのだが、なんかシズル感が足りない。正解がよくわからない。

午後、妻と散歩がてらアレックスシネマへ。

濱口竜介監督「ドライブ・マイ・カー」を観る。日曜の昼下がり、3時間の長尺、たぶんわかりやすい映画じゃないだろうし、もしかしたら寝ちゃうんじゃないかとも思ったが全くの奇遇に終わった。長さは全く感じず、集中が途切れることなく観終えた。いつも映画を観ると、素晴らしい!とか凄い!って言いがちなんだけど、なんというか安易な言葉では言い尽くせない。言葉では追いつかない映画体験だった。

妻を亡くした演出家であり俳優の家福。広島で行われる演劇祭の為にマイカーで広島へ。映画祭の規約で現地での運転はドライバーに託されることに。そこで出会ったのが寡黙なドライバーみさき。

家福が演劇祭の為に演出するのは多言語で演じられるチェーホフ「ワーニャ伯父さん」。脚本家であった妻・音のドラマに出演していたが、スキャンダルによりフリーになっている役者・高槻をはじめ国籍も性別も違う役者たちが集められ芝居が作られていく。その過程はとても独特で、家福は役者たちに何度も繰り返し本読みをさせる。それぞれの言語、その中には手話すらもありお互いがお互いの言葉を理解できないまま何度も何度も台詞が交わされるのだ。

映画の中で特に印象的なシーン。亡き妻・音をめぐり車の中で交わされる家福と高槻の会話。ライターの西森路代さんがTwitterで「家福と高槻は、コントロールをしすぎる男とコントロールができない男ということで、表と裏。」と書いていたが、この表と裏が相まみえるシーン。音のことをわかりたい、理解したいと思い続ける二人。お互いの告白から得体のしれないモンスターのごとく浮かび上がる音の姿。そして彼らは気付く。「わからない」ということを「わかる」のだ。それにしてもこのシーンでの高槻=岡田将生が凄い。ギリギリのところから解き放たれたようにも、絶望の果てをみてしまったようにも見える。わかりたいと思っている間、決して触れることができなかった音の実像が、わからないということがわかった瞬間ふと目の前に現れる。そして二人は音から解き放たれるのだ。

家福とみさきは最初お互いわかり合おうとも理解し合おうとも思っていない。でもみさきは家福の愛車を運転することで、その愛車が大切に扱われてきたことを感じ家福のことを理解する。家福もまたみさきの丁寧な運転から彼女のことを理解する。決して多くの言葉を交わさない二人だが、移動する車を通じてわかりあう。二人を乗せた車は同じ道程の反復から逸脱し、みさきがかって暮らした遠くの町に向けて走り出す。そこでみさきもまた自分自身を縛り付けていたものから解き放たれる。

芝居つくりは進み、やがて役者たちは言葉の先に辿り着く。お互いわからない言語で台詞を何度も繰り返した果て、言葉や演技から解き放たれ、奇跡の瞬間が訪れる。

やっぱりうまくは感想をかけないが、たぶんこの先もずっと心に残り続ける映画になるだろう。いつもと同じ言葉だが、いつもとは少し違う気持ちで言いたい。素晴らしかった。

8/23(月)

録画していたスカートの澤部さんMCのシティポップ特番をチェック。この10年ほど毎日YouTubeなどで韓国の音楽をチェックしているのだが、2年ほど前から如実にシティポップサウンドが盛り上がってきていた。インディから始まり、K-POPアイドルまでもがシティポップサウンドに。これも配信がもたらしたこと。韓国や台湾のセレクターが選んだ楽曲陣のなんたるマニアックなこと。国境を越えて発見されていく楽曲たち。新たな化学反応が起こり、新たな音楽が生まれる。

8/24(火)

先週から読み進めていた細田昌志著「沢村忠に真空を飛ばせた男 昭和のプロモーター・野口修 評伝」読了。発売時に買っていたのだが、2段組みで500ページを超える大著に恐れをなしてなかなか読み始められずにいたのだが、読み始めると一気に引きずり込まれた。壮大なノンフィクションは野口修の父、野口進の物語から描かれる。格闘家にして右翼の活動家、野口進の人生を丹念に掘り起こすことで、野口修の壮大なバックボーンが浮かぶ。格闘技、興行、右翼人脈、海外とのパイプ……そして日本初の格闘技プロモーター・野口修が誕生する。

沢村忠。1970年生まれの僕は知識としてその名前は知ってはいたもののリアルタイムでは観てはいないし詳しくは知らない。筆者の細田さんは1971年生まれだから、その全盛期を体感したわけではないだろうに、それでもここまで掘り下げ調べ上げるとは。想像を絶する労力と根気、覚悟と執念を感じずにはいられない。

沢村忠が登場してくるちょうど中盤あたりから、面白さに拍車がかかる。新東宝ニューフェイスとしてデビューする俳優、白羽秀樹。やがて彼は野口修の元、沢村忠として一世を風靡する。キックの鬼としてスーパースターになっていく沢村忠。筆者はそのからくりと真実を追求していく。誰もが感じながら誰もが言い出せないことを。「教えて下さい。沢村忠の試合は真剣勝負だったんですか、八百長だったんですか」と野口修に直接問いかける場面。その緊張感そして野口修の回答。何も語っていないが全てを語るかのような態度。そして実際に沢村と対戦した相手に話を聞くためタイへ。対戦相手、ポンサワンによって語られる真実。だがそこにある沢村への敬意が不思議とその衝撃的な真実よりも心に残る。

そして修は芸能プロを設立。前半で描かれた野口家のファミリーヒストリーからするとこれもまた必然のように感じる。人生を共にすることになる山口洋子との出会い、沢村忠に続いて修は五木ひろしをスーパースターに育て上げる。あらゆる手段、人脈を使いつつ芸能界を暗躍、もちろん五木ひろしの実力があった上だが、レコード大賞にまでたどり着く。

だが人生は諸行無常。格闘界、芸能界でトップをとりながらやがて野口帝国は崩壊していく。沢村、五木は去り、すべてのツキからも見放されていく。表舞台からひっそりとフェードアウト、悪名が残り、栄光は歴史に埋もれていった。そして2016年野口修はこの世を去る。

晩年の野口修の下に通いつめ、彼の人生を辿り、時間、国境をまたぎ、仕事すらやめ、10年の歳月をかけて筆者はこの壮大なノンフィクションを書き綴った。彼が死んで4年。2020年「沢村忠を真空に飛ばせた男 昭和のプロモーター・野口修 評伝」刊行。キックボクシングを作り、沢村忠というスーパースターを育て、五木ひろしを世に出した稀代のプロモーター・野口修の清濁併せのんだ偉業は、歴史の闇に葬り去られるすんでのところで、細田昌志さんの覚悟と執念が込められたこの一冊によって救いあげられる。

2021年7月、本書は第43回「講談社 本田靖春ノンフィクション賞」を受賞。沢村忠でスポーツ大賞、五木ひろしレコード大賞、そして野口修は自分自身の人生を描くノンフィクションによって3冠を達成するのだ。

8/25(水)

YouTubeで1週間限定公開された千葉真一主演「直撃!地獄拳」観る。若き千葉真一の身体を張ったアクションとギャグ。ギラギラしたパワーがあふれてるなー

8/26(木)

radikoで「東野幸治のホンモノラジオ」。先週の話じゃないが東野さんもインプット量が半端ないな。インプット量、すなわち興味のアンテナが全方位に向いている。人間への尽きせぬ興味、ある種の下世話さが大切だと思う。自分の中にある下世話さを僕も保っていたい。

8/26(金)

やっと金曜。寄り道もなしで早々に帰宅。ゆっくり日記を書く。「ドライブ・マイ・カー」の感想に手こずり4時間かかって、やっぱり全部書き直す。

 

今週聴いていた音楽は

  • 「Queendom」Red Velvet
  • 「OPEN」Kwon Eun Bi
  • 「Eutopia」STUTS
  • 「29」Rossy PP
  • Tiger Eyes」Ryu Su Jeong
  • 「Dregs Of Dreams」武川雅寛